総評
谷崎潤一郎と言えば、言わずとしれた文豪。
恥ずかしながら、28歳にして初めて読んだ。それがこの「細雪」だった。
最初こそ文章に少しだけ難解さを感じた。けれど同じ言い回しが頻出するので、慣れてくるとスラスラと読めてしまう。例えば「入ってくる」は「這入ってくる」と書かれるのだけど、読みすすめる内にルビ無しでも読めている自分がいた。
内容はと言えば、果たして、面白かった。
あらすじはこの通り。
大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。
なるほど。上流階級の4姉妹とのことで。高飛車な話かもしれないと気構えたいたのだけど、全くの杞憂だった。
それぞれに個性の違う4姉妹を愛しいと思えれば、この小説にはハマれると思う。自分の嗜好として、女たちがやいのやいのしているだけで好きなので、存分に楽しめた。
4姉妹に限らず、細雪で描かれる人々はとても可笑しくて愛くるしい。人間臭さが全開で、愛おしくて仕方なかった。谷崎潤一郎の人間への愛と、真っ直ぐな観察眼があってこその作風だと思わされた。
決して劇的なストーリー展開がされるわけではないけど、ゆっくりと流れる時間の中で、人間が愛おしくなるような小説だった。
谷崎潤一郎はこんな作家だったのかと。純文学にはこんな小説があったのかと。新鮮な発見をした想い。自分の純文学嫌いが、少しだけ解消されたかもしれない。
細雪はなんと三部作。中巻と下巻を読むのが今から楽しみ。
各論
ここからは、小説を読みながら書いたメモ書きや、印象に残った箇所の引用を。
(p.29) 妹の妙子が先に結婚する可能性について、姉の雪子曰く、
「私は後になったところで打撃を受けもせず、希望を捨てはしない、自分は自分で幸福な日が廻って来るような予感があるから」
かっこよすぎる。
(p.40) 幸子と雪子と妙子が慌ただしく着付けをするシーン、微笑ましくてニヤニヤしてしまう
(p.60) 悦子のウサギについての綴方(作文)がとても可笑くて微笑ましい。綴方ひとつ取っても、そこに含められた人間愛を感じて、心が暖かくなる。
(p.65) 見合いの場で「楚々とした美しさ」をもつ雪子を引き立てるために、姉の幸子が地味な化粧をするという話、リアルすぎる。幸子はそれを密かに嬉しく思い、夫の貞之助にそれを話す。貞之助もまた、それを誇らしく思う。なんともリアルな親族描写。
見合い相手の母が精神病である、という理由で破断にしてしまうのか…。上流階級というのはよく分からない…。
(p.161) 知人の夕食会に招待されて、たらふく飲んだ帰り道、夜風を浴びて「気持ちが良い」という妙子たち。こういう飲兵衛の感覚って、昔にもあったんだなって。 あと、夕食会で食べ切れない食事を、テーブルの下にいる他所の家の犬に食わせるシーンが笑えて仕方なかった。
星評価
★★★★★