レビュー
まず、冒頭。あたかも不思議な生物を紹介するかのように、「むらさきのスカートの女」について解説される。そしてそれをメタ視点で把握している黄色いカーディガンの女、つまり主人公。
この段階では、まだストーリーの方向性は見えないものの、ただならぬ不可思議な雰囲気に引き込まれる。これは面白くなりそうだ、という予感を抱かせるのが巧い。
黄色いカーディガンの女の目的はハッキリしている。むらさきのスカートの女と友だちになること。
しかし純然な交友関係は築かれない。とは言え、ありきたりなストーカー小説でもない。黄色いカーディガンの女はむらさきのスカートの女を同じ職場で働くように仕向ける。なんてまどろっこしい…w
むらさきのスカートの女はホテルの清掃業務にて、メキメキと頭角を現す。仕事の覚えは早いし、すんなりと職場に馴染んでしまう。
一方で主人公はというと、全く存在感がない。職場だけではなく、この世界と何の接点もないかのような印象をもたせる。実際に生活しているはずのに誰にも知覚されないようで、切実な悲哀を感じさせる。 むらさきのスカートの女からももちろん気づかれることなく、物語は進んでいく。
ここで読者として1つの仮説が持つ。「友だちになりたい」とはつまり比喩で、むらさきのスカートの女は主人公にとっての憧れの象徴なのではないかと。
物語の中盤、暗雲が立ち込み始める。
職場でのむらさきのスカートの女の立ち位置は転落していく。職場の所長と不倫をしたり、仕事をおざなりにしたり、悪評が立ち、孤立していく。
そしてその帰結として、むらさきのスカートの女は所長と口論になり、誤って階段から突き落としてしまう。所長の反応は無い。もはや、死…?と冷や汗の垂れるその瞬間、黄色いカーディガンの女が現れる。待ってましたとばかりに登場して早口で状況をまくし立てる彼女を、はじめてむらさきのスカートの女が見る。ようやく知覚された!
主人公の助言に従って、むらさきのスカートの女は逃亡を図る。
このシーンはなんだか、中二病のヒーロー願望の体現みたいでニヤニヤしてしまったw
そして物語の終盤、むらさきのスカートの女は行方知れずとなる。彼女がいつも座っていたベンチには、黄色いカーディガンの女が座っている。少しホラーな入れ替わり描写で、この小説は幕引きとなる。
読後感としては、むらさきのスカートの女がこの世界から消費されてしまったようで、恐ろしく虚しい気持ちになった。
黄色いカーディガンの女だけは彼女の再来を待つのだけど、その執着の動機はついぞ把握できなかった。シンプルなんだけど実体が分からない感じ。うーん、この煙に巻くような作風、嫌いじゃないけど。
ストーリーは分かりやすく起伏もある。そして独特で不思議な雰囲気づくりがうまい。芥川賞にしては比較的万人向けの良作だったように思う。
星評価
★★★★☆