日々是書評

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【行政府の暴走を防ぎ、民主主義を守る】国対委員長 - 辻元清美

レビュー

「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」で紹介されていたので、気になって読んでみた。

筆者は辻元清美さん。内容は、国対委員長という職務についてと、安倍政権と対峙した数年について。

大変面白かった。

国対という部門について、自分は知識としては知っていた。法案について事前に根回ししておく部門だと、そのような曖昧な理解をしていた。

しかし、国対委員長経験者の視点で書かれると、なかなか夢中になって読んでしまった。特に、辻元さんが国対委員長に就任したのは、立憲民主党野党第一党に躍り出た直後。人員もノウハウもない中、手探りで始まった国対の仕事。さながらスタートアップの物語のようだった。

国対の仕事とは、行政府の暴走を防ぐこと、つまり民主主義を守ること、と説く辻元清美さんの志の高さがよく伝わってきた。

さらに、本書では野党の仕事ぶりについても書かれる。「野党は批判ばかり」という意見があるけれど、野党は恐ろしく仕事をしている。数々の法案を作成してきたが、与党が審議に応じず、メディアで報じられることが少ない。また、野党の検証と批判によって防がれたものもあった(裁量労働制の営業職への適用拡大や、安倍政権でのトップダウン改憲など)。数で劣る野党が、いかにファクトと「理」で動いていったか、あまりの健闘ぶりに胸が熱くなった。

とはいえ、野党を褒めちぎるだけの内容でもない。本書を読むと、自民党の中にも懐の深い議員が多くいることがわかる。与党の議員として、少数派の声にも耳を傾けること。それが政治家の矜持であると理解している議員は多くいる。それだけ、世襲議員と保守派閥で固めた安倍政権が異常だったことがわかる。

国政について、そして安倍政権についてよく分かる良書だった。そして、このような逸材が落選したのが2021年衆議院選挙だったのかと、改めて落胆する想いがした。

引用・抜粋

第一章 国対委員長という仕事

辻元清美は女性として初の国対委員長。任期は2017−2019年。元々非営利で活動していたのち、政界入り。小池百合子希望の党には入党せず、立憲民主党に。先の選挙では、立憲が55議席、希望が50議席となった。(ちなみに希望はのちの国民民主党)そんな折に、枝野から国対委員長に推された。野党第一党の代表としての就任。

野党第一党になった直後の国対の仕事は、さながらスタートアップ。場所を確保し、人を集め、戦術を練る。

本来国会の運営は、衆参両院の議院運営委員会の仕事。しかし、本番でいきなり討議を始めても、収拾がつかなくなる。そこで、国対が事前調整を行う。

国対の歴史は古く、1940年代。国対にはベテラン議員が登用されることが多く、総理大臣への登竜門とも。その昔は、接待などを伴う根回しが横行していたが、それは小選挙区制導入前。万年与党と万年野党が固定化されていたからこそ。今では政権交代の可能性があるから、馴れ合いの政治は終わった。

国対委員の仕事は雑務も含む。国会議事堂の部屋割り当てなど。面積が足りない場合は、壁を打ち壊すことも。

選挙の後には人事決定などのために特別国会が開かれる。当時与党自民党は所信表明をせずに2、3日で閉会しようとした。辻元清美の元にも、自民党サイドから「お互い選挙で疲れているから…」と事前の根回しがあった。しかし、議論の重要性を説き、特別国会の延長を勝ち取った。これが辻元清美の初仕事。

次の仕事は野党の取りまとめ。自民党の森山国対委員長からは、これからは立憲とのみ話す、と伝えられる。自公は毎週水曜の朝に2幹2国という定例会を設けている。それと同じように、野党も定例会を持つことに。

大事にしたのは少数の意見に耳を傾けること。数で押し切らずに、議論し尽くす。民主社民の連立時、民主の先行により社民が離脱まで発展した経験に基づく。そのおかげもあり、NPO法環境アセスメント法・情報公開法・男女共同参画社会基本法などの成立に道筋がついた。

政治は妥協の芸術、その政治家を知るにはその人の選挙区をみよ。

野党らが官僚に質疑を行う野党合同ヒアリングを実施。オンラインでリアルタイム配信した。

立憲民主党では、新人にも質疑をさせている。税調が作成した文書を読み上げるだけの自民党とは異なり、立憲民主党では新人に自作させる。それを聞き、ともにブラッシュアップするのも国対の仕事。新人はそうすることで、地元有権者に仕事ぶりをアピール可能となる。

国会での質疑時間について、与党2野党8の割合だったのを、自民党議席数を考慮して5対5にするよう要求。モリカケの追求を恐れた。質疑時間の減少は、立法府による行政府への監視能力を弱めることとなる。そもそも、国会に上がって来る法案は自公が事前議論したもの。与党の質疑が増えるのは事前議論不足ではないか。

国対委員長の重要なポイントが人脈。党外にも顔が利くのは強み。

数で劣る野党にとって、言葉はひとつの武器。メディア露出チャンスを伺い、プレゼンスを発揮するキラーワードを。

第二章 調査力と論戦力で官邸を動かす

2018年の国会審議に関して。一番の目玉は裁量労働制の適用拡大。しかし、法の根拠となるデータに誤りがあり、安倍首相と厚生省は謝罪。

国対委員長同士で膠着状態になれば、幹事長レベルにまで同席者を増やす。裁量労働制の件がそれ。

筆者曰く、行政府の誤りを正すのは立法府の役割の1つ。事実、裁量労働制の件では、安倍首相に誤りを認識させることができた。これは国対始まって以来の快挙、と自民党サイドの森山委員長から言葉があり。

数で劣る野党は、「理」で説いていく。

第三章 野党が審議拒否をする本当の理由

野党が国会を止めた途端に、疑惑について「思い出してきた」参考人。笑えるようで笑えない話。

自民党下野時代、自民党も85回国会を止めた。

不祥事はモリカケだけではなく、イラク日報の破棄や、自衛隊幹部による暴言など、以前から始まっていた。

第四章 憲法をめぐる「暗闘」

辻元清美国対委員長としての最大の功績は、安倍晋三改憲を阻止し続けたこと、と評する人も。

憲法は国民を守り、権力者を抑止するもの。改憲するなら、国民発であるべき。また、具体的な困りごとに対しては、まず立法で対処。

ある試算によると、国民投票の経費は850億円

コロナなどの災害を理由に改憲を言い出す向きがある。しかし、災害対策基本法や国民保護法には強力な私権制限がある。法律で対処可能。

辻元清美は政界の中でも、憲法に関する発言の多さではトップ5に入る。憲法調査会憲法調査特別委員会、憲法審査会と、20年にわたって委員を務めてきた。

コロコロとタネを変えて憲法改正を言い出すさまは、ただの思い出づくりとして安倍晋三改憲したい?歴代初の改憲実績。

第五章 国会の無力化にあらがう

安倍政権の人事は、世襲議員や右派で固められていた。特に、世襲議員が集まると、良かれと思ってやったことが、大衆の価値観から離れすぎていることがある(安倍晋三のステイホームを呼びかける動画、など)。さらに、疑惑を追求されても秘密を守り通した人間に、報酬的に人事昇格やポジションの割り当てを行うので、忖度組織となってしまう。

かつての自民党には、保守として懐の深さがあった。小渕恵三辻元清美に電話をかけ、反対派の声を聞いた。竹下登NGOを官邸に招いて声を聞いた。しかし安倍政権では、政治家としての、少数者の声まで聞くという規範意識が後退した。

野党は法案を提出するものの、与党が拒否するので審議されることがない。

原発ゼロ基本法案 ・ソーラーシェアリング推進法案 ・選択的夫婦別姓法案 ・LGBT差別解消法案 ・公文書管理法改正法案 ・カジノ法廃止法案 ・共謀罪廃止法案 ・子どもの生活底上げ法案 ・人間らしい質の高い働き方を実現するための法律案 ・農業者戸別所得補償法案 ・ワークルール教育推進法案 ・性暴力被害者支援法案 ・復興加速四法案

与野党がバランスよく議論を深めていくことが大事。

巻末 特別対談 立法府を守るために 山崎拓 辻元清美

森山幹事長、二階、菅の、世襲議員ではない叩き上げのトライアングルが実力を持っていたし、辻元清美がよく頼っていた。

かつてのように幹事長同士のコミニュケーションは減っており、むしろ国対同士が最も接点がある。

二階は田中角栄の弟子だったので、三角大福中の時代を知っている。つまり、自民党内で権力争いが盛んだった時代。