日々是書評

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【ロボットSFの金字塔】われはロボット - アイザック・アシモフ

総括

人類の辿った未来をロボット工学の進化という視点から描く。形式は連作短篇集で、翻訳がごくごく自然。読みにくさはなく、さくさく読めてしまう。

本書の前半は、良質なSF小説として楽しく読んだ。ロボットたちはどれも愛くるしくて、登場する人間もまたハートフルで魅力的。読みながら、ロボットと人間への愛が溢れていることに気づく。

しかし後半に進むにつれて、アシモフの突きつけた課題が迫ってくる。ロボットとマシンが優位となる未来において、人間はどうあるべきか。どう向き合っていくべきなのか。

ロボット文学の金字塔であり、SF小説の必読本。すべてのSF好きに、自信を持ってオススメできる傑作だった。

各論

ここからは、各章ごとの感想とメモ書き。(注:ネタバレあり)

1. ロビィ

ロビィという名の育児ロボットの話 娘がロビィにベッタリなのを見て、母親は心配し、引き離そうとする。犬を与えたり、ロビィを遠ざけたり、旅行に連れてって注意をそらそうとする。 子どもの気持ちが汲めない親っていつの時代にもいるんだよなぁと思わされた。 最後、娘はトラクターに轢かれそうになる。人間たちが硬直する中、再会したばかりのロビィが瞬時に飛び出して救出する。思わず、目頭が熱くなった。

2. 堂々めぐり

ドノヴァンとパウエルという二人の男性が、とあるミッションを抱えて水星のステーションにやってくる。 しかし、ミッションに必要なスピーディという機械が故障し、制御不能となってしまった。 二人は、地中深くに格納されている旧式ロボットを操縦し、スピーディの捕獲に乗り出す…という話

二人は、化学とロボット3原則を利用して窮地を脱する。さながらアクションサスペンスのよう。 それにしても、ロボットのセリフと描き方がたまらなく愛しい。

3. われ思う、ゆえに...

引き続き、ドノヴァンとパウエルのお話。二人は別の宇宙ステーションにやってきて、キューティというロボットを造った。 しかしキューティは賢く、自分が造られた事実を疑う。更に、宇宙や地球、他の人類の存在も信じられない。 キューティは熟考の末に「われ思う、ゆえに我あり」と発言し、さらに創造主の存在を信じ始める。曰く、人間のような非合理な存在が、自分のような合理的なロボットを造れるわけがないと、彼は信じる。

ドノヴァンのロボットを罵る語彙力が豊富。

人間に従わないロボットの登場に、読者はヒヤリとしてしまうけど、物語の帰結は穏当なものとなった。それはどこかコメディタッチで、ここでもまたロボットの存在は愛しく思えた。

4. 野うさぎを追って

引き続き、ドノヴァンとパウエルのお話。デイブという高性能で従順なロボットが登場。 二人が体を張って、その原因を突き詰める。

5. うそつき

ハービイという、テレパシー能力をもつロボットが突如発現する。 回想の語り手であるキャルヴィンが登場。ロボット心理学者である彼女と、ロボット技師であるアッシュが原因特定にあたる。

ハービイはキャルヴィンがアッシュに恋心を抱いていることを見透かす。そして、自分に魅力がないと思い込んでいるキャルヴィンに対して、アッシュもまたキャルヴィンに恋心を抱いていることを教えてやる。 ハービイの深い人間愛に、胸が熱くなってしまう。

と思いきや、アッシュはキャルヴィンのことを愛してなどいなかった。 ハービイはただ、その人間の求める答えを喋っているだけだった。それはロボット三原則の第一原則に従ったまでのこと。

ハービイは数学者のプライドを傷つけまいと、自分が数学が苦手なふりをしていた。ただし、嘘をつくその態度が数学者を傷つけることを知ってしまう。 その矛盾に向き合った時、ハービイは故障してしまう。

6. 迷子のロボット

ネスターという63体のロボットが登場。そのうちの1体が、ロボット三原則の第一条を緩和されているという。 その1体は残りのネスターの中に紛れて、正体を偽っている。ロボット心理学者のキャルヴィンが登場。そいつを見破る、という話。

7. 逃避

星間飛行の研究に際して、マシンリソースを使いたい。という話。 ただし、もしその研究結果が人間の死に繋がるなら、それはロボット三原則に抵触する。

「幼児の個性」を与えられたブレーンというマシンは、これまた魅力的。 ブレーンは星間飛行の建造のための演算を無事に終える。その検証のために、ドノヴァンとパウエルが登場。

ここに来て、キャルヴィンたちと、ドノヴァンとパウエルのコンビが勢揃い。連作短編集として胸アツな展開。

コンビは、ブレーンの完成させた船に乗り込む。なんとその船は星間飛行をやってのけてしまう。 星間飛行時に人間は一度死んでしまう。それがロボット3原則と微妙に衝突する、というのが面白い。

8. 証拠

バイアリィという著名人がロボットであるとの噂が広がる。 彼は人を殴ることで、ロボット3原則に縛られない、つまり人間であることを証明した。そして、彼は市長選に当選する。 が、実は殴られたのはロボットであり、彼はロボット3原則を破ったわけではなかった。

9. 災厄のとき

時間が少し流れて、スティーブン・バイアリィが世界総統となっている。 この時代には、マシンが経済を統制し、失業も余剰も生産不足も存在しない世界が実現している。そして人々はそれが賢明な方法だと知っている。

しかし、マシンが不調をきたし始めた。やや失業や生産余剰が目立つようになってきた。 バイアリィは初め、入力されたデータの正確性を疑う。<人間同盟>という反ロボット集団の仕業ではないかと、疑念を持つ。

果たしてその原因とは、マシン自身の仕業だった。マシンがあたかも<人間同盟>が誤ったデータを入力したように見せたのだった。その結果、<人間同盟>の組合員は弱体化させられていた。 それは、マシンがロボット三原則の第一条を守ってのことだった。反乱分子を弱めることが、人類全体に安全がもたらすと考えたからだった。

もはやマシンがどのような未来を描いているかは人間には分からない。人間はただそれに従っていくだけだ。そう、キャルヴィンは言い残す。

星評価

★★★★★

今回紹介した本