日々是書評

書評初心者ですが、宜しくお願いします ^^

【旅、料理、異文化、人生の転機と幸福について】あなたは誰かの大切な人 - 原田マハ

レビュー

原田マハを読むのはこれで11冊目になる。けれど、短編を読むのはこれが初めて。

収録されたエピソードは6つ。それぞれ、人生の転機を迎えた40代の女性を描く。

「無用の人」はずば抜けて素晴らしい。なるほど、短編を書くとこのような仕上がりになるのかと、新鮮な気持ちになった。それでいて納得感が有り、そして満足感があった。このエピソードだけなら、文句なしに星5つ。原田マハの美術的なエッセンスと人生描写がキラリと光った名作。

「月夜のアボカド」と「緑陰のマナ」は星4つ。人生と生き方、そして幸福について、明るく前向きに描く。それを異文化と特別な料理が彩る。これもまた原田マハらしさ。

「最後の伝言」「波打ち際のふたり」「皿の上の孤独」は星3つかな。ハズレではないけど、良すぎることもない。ちょっとした大衆小説として読めば、まぁ悪くない仕上がり。

総評としては、さすがの原田マハ。平均点が高い。お得意の美術要素あり、大衆小説的な要素あり。そして異文化、料理、人とのつながりなど。原田マハらしさが凝縮されている。

「あなたは誰かの大切な人」というタイトルももちろん良い。安心できる優しさがあるのだけど、決して押し付けがましくない。

原田マハのファンなら読んで損なし。むしろこの短編集から入門するのもいいかも、と思えるような万人向けの短編集だった。

以下、各エピソードのメモと感想。

最後の伝言

美容師一筋で家計を支えてきた母の臨終。美男で「ヒモ」の父が葬式当日、式中に現れる。生前の母のリクエストによって、会場に流された音楽。歌によって、「どうか私のことは忘れないで」というメッセージを伝える。

これは、良い話…なのか?笑 悪くはないけど、星3つと言ったところかな。

月夜のアボカド

主人公のマナミは20代後半。フリーランスでアートコーディネーターをしている。

マナミにはロサンゼルスに二人の友人がいる。一人はアマンダ。美術関係のつながり。そしてもう一人はエスター。アマンダの友人で、メキシコ料理が得意。二人とももうおばあちゃんのような年齢。

50代にしてようやく「自分はこの幸福に出会うために生きてきた」と確信できたエスターには、フィクションとは言え、人生の希望をもらえた想い。

人生の幸福とは何たるか。それをメキシコ料理にのせて?、暖かくまろやかに読者に語りかけるような、読んでいて子気味の良くなるお話だった。お話の雰囲気も語り口も、原田マハらしさが良く出ていたように思う。

無用の人

粋だねぇ。とても粋なお話を読んだ気分。

美術小説という一大ジャンルを築いた原田マハだけど、短編を書くとこんな仕上がりになるのかと。新鮮だけど納得感があり、そして良いものを読んだという満足感がある。

一ヶ月前に亡くなった父から、届け日指定で郵便が届く。中に入っていたのは鍵。後日、封筒の住所に行き、鍵を使って部屋に入る。すると部屋の中には一冊の本が。

それは「茶の間」。父の愛読書であり、主人公が昔こっそりと読み、アートの世界に憧れるきっかけとなった一冊だった。

それが部屋に鎮座している。父は多くを語らぬ人だった。離婚した母からの評価は低い。存在感のない、つまらない人と。

けれど娘は、溢れるような美へ慈しみを、父の静寂な人生の中に見た。

父の部屋の窓を開けると、満開の桜が見えた。娘は終日、その桜の「絵画」を見て過ごした。という息を呑むような美しい終わり方。

緑陰のマナ

主人公は40代の女性で、旅関係の仕事をしている。ひょんなことから懇意になったトルコ人の女性と二人でイスタンブールへ赴く。旅の目的はトルコの取材なのだけど、二人は食を通じてお互いの家族への想いと過去を語り合う。梅干しとシガラボレイ。娘を想う母と、家族を想う娘。異国の地で、異文化の世界で、心を通わせた二人のお話はとても素敵。

それと、原田マハの目から見たイスラム世界の描き方も良い。公平さと恍惚と賛美が感じられて、読んでいて気持ちがいい。

波打ち際のふたり

20代と30代を順風満帆に過ごした主人公。しかし40代になって、転機が訪れた。退職、離縁、そして母の認知症

一度は疎遠になっていた友人のナガラとまた旅に出始める。

人生も後半戦に差し掛かろうとしている二人が、旅をして、美味しいものを食べて、笑い合って語らい合うさまに元気をもらえた。

こんな友人がいたらいいな。そしていつまでも楽しく強く生きたいな。そんな風に思えたお話。

皿の上の孤独

うーむ、星3つかな。悲哀を含んだ良い味わいではあるけど、少し物足りない感じ。ただ、色彩を感じる1作ではあった。メキシコシティのバラガン邸のビビッドな色合いと、日本での夜の描写、そして視力を失いつつあるかつての同僚。それらはとても対比的な色味を感じさせた。

星評価

★★★★☆

レビュー