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【もっとSFを好きになる】いま集合的無意識を、 - 神林長平

レビュー

総評

神林長平による、意識をテーマにした短編集。全6篇。

国内SF作家の第一人者によるSF短編集。非常にわくわくしながら読んだ。

果たして内訳は、2本傑作、3本佳作、1本微妙…w 各短編の詳細レビューについてはページ下部にて。

総じて面白かった。意識とは、無意識とは。抽象的なテーマを様々なフレームから描いてみせる。サイバーサスペンスあり、人造人間あり、スペースオペラあり、そして自身を登場させたメタ小説ありw 作者の自由で際限のない発想に脱帽。

読んで損はないと思う。特に傑作2本は是非読んでほしい。(「自・我・像」と「かくも無数の悲鳴」)

表題作については、ちょっと説教臭さもあるものの、SF作家としての矜持を見た気がした。SF作家としての神林長平をもっと好きになった。

以下、各論。タイトルのあとの()は評価。

ぼくの、マシン(微妙)

よく分からなかった…。映画の一部だけを、前後の文脈を知らずに観させられたような気分。

戦闘妖精・雪風>のスピンオフとのことで、そちらを読んだ人は楽しめるのかもしれない。

切り落とし(佳作)

なるほどなぁ。電脳サンペンスといったところかな。

DJ(電脳世界への接続)が当たり前になった世界で、とある探偵が事件の依頼をされるというもの。

ところが、別件で殺人事件が起こる。探偵は自分の犯行を疑う。なぜなら、DJが当たり前になった世界では、人々の精神もまた当たり前のように分裂しているからだ。

探偵は警察としての別人格を作り出し、犯人かもしれない自分と対話する。俺と私の対話が始まる。このダブル一人称は、レトリックとして歯ごたえがある。

短編ながらに中身のある、二重にも三重にも面白い話。でも、ちょっとスプラッター描写があるので、注意かもしれない。

ウィスカー(佳作)

息子と母親とその愛人の話。

息子は精神感応力がある。いわゆるテレパシー。それは、この世界の他の子どもと同じように。母親はもう大人になったので、精神感応できない。人の心が一切分からず、むしろ邪推に邪推を重ねて空回りする。愛人は、大人になっても精神感応できるというやや特殊な例。ひねくれて、悪意に満ちている。

テレパシーが当たり前である世界での、三者三様の語り口と人生。ちょうど及第点な感じの短編SF小説

最後はちょっとホラー的な終わり方。ウィスカーがどうなっていくのか、少しだけ想像を巡らせてみた。

自・我・像(傑作)

いやー!面白い!「死して咲く花、実のある夢」を思い出させてくれる。意識と技術とヒューマニティ。

言語処理系の人造人間であるドゥウェル氏。彼は元々自我を持っていなかった。

彼は最近自分の中に雑音を感じていた。試しに問いかけてみる。お前は誰なんだ?すると、突然第三者が喋りだす。

「ドゥウェルが問いかけてきたぞ、どういうことだ?」

「分かりません」

彼らはドゥウェルオペレーターらしい。つまり、人造人間のドゥウェルを調整する人々。あー、面白い。このレトリックと、そしてSFみ。視点がぶっ壊れてるのに、楽しく読めてしまう。

ところが、ドゥウェルが何者かにハックされる。オペレーターたちは、ドゥウェルによって破壊されそうになる。戸惑うオペレーターたち。実はオペレーターたちこそが、ドゥウェルがつくった自我。存在しない、虚像だった。

ドゥウェルは外部からの刺激によって自我を持った。言語処理系の人造人間が、自我を持つ。言葉の集合さえあれば自我は生まれ得る。なんという秀逸な短編SF。

かくも無数の悲鳴(傑作)

ああ、面白い。難しいけど!笑

宇宙を漂流する一人の男が主人公。あらゆる追っ手から逃れて、母なる地球に辿り着いた。場末のバーでウィスキーを頼んだとき、バーテンダーが「ゲームクリア」とタネ明かし。

その昔、地球は異星人に征服された。宇宙船が飛んできたわけでも、星間戦争が起こってきたわけでもない。彼らは人類の意識に割り込んできた。人類がこの世の物理的な真理に気づいた時、異星人の存在は知覚された、という形。

それ以来、人類は異星人とのゲームをしている。主人公はその駒でしかなかった。

ゲームは次のステージへ。

多世界解釈の正誤とは。深実在とは。

たまらなく難しく、たまらなく面白かった。酒と宇宙とハードSF。この上なく好きだ。

いま集合的無意識を、(佳作)

表題作。作者自信が登場するメタ的短編。

山中での自然な隠居生活と、目の前のPCで起こるフシギな出来事はとても対比的でよい。

PC画面に表示された文字は「ぼくは伊藤計劃だ」。そうか、この短編は神林長平から伊藤計劃への追悼なのだ。

それから、SF作家としてのあり方や、SF小説について語られる。

「僕がSFを書くのは、それが本音を忍ばせやすいから」

「SF作家として唯一の義務は、新しいものをつくること」

意識と知能について。ハーモニーの結末は、人類が意識を失うこと。知性だけになった人類は想像を失って滅びる。

作家としての神林長平がもっと好きになる。そして、神林長平の未読の作品を読みたくなる。そして伊藤計劃も。

星評価

★★★★☆

今回レビューした本