総評
ブクログのタイムラインで見かけ、気になったので購入。
ポップなサブカル本かと思いきや、内容はとても体系的。アニメ・ゲーム・プロレス(?!)がたどってきた歴史を解説し、その可能性と海外への展開について語る。最後には、日本的経営に関する筆者の見解が述べられる。
筆者の中山淳雄さんは現在、ブシロードの幹部。海外展開のためにカナダに赴任もしていた。なるほど。知識と経験を兼ね備えた語り口には納得感がある。
非常に学びの多い一冊だった。日本発のポップカルチャーのパワーを再認識できる一冊。(詳細は各論をどうぞ)
各論
各章ごとのメモや感想。
第一章
日本でオタク市場がいかに形成されてきたか、について書かれる。
そっか、オタクコンテンツのルーツはやはり鉄腕アトムなのかぁ。
漫画がいまのゲームのように「有害コンテンツ」扱いされていた時代があったのか。
創刊当初のサンデー・マガジンはしばらく赤字だった。これは、現代のスポティファイやAWSと同じく、最初は赤字でもいいからとにかく成長してカバレッジを取る、という戦略。
漫画はもともとアメコミの輸入だった、が、週刊誌の普及で米国以上の市場が展開された。90年代になると市場の差は開き、アメリカが300億、日本が5000億、と言った開きとなる。
しかし、漫画家の労働時間は長く、所得も少ない。漫画産業は危うい供給の上に成り立っていた。
60年代、テレビ局の収益は盤石ではなく、アニメ放映権だけでは大赤字だった。それがかえって、アニメのマーチャンダイジングを促進した。(人気の出たキャラクターを利用して商品展開。
アメリカのアニメ界で50年代に規制が敷かれたのと対象的に、日本のアニメはアングラカルチャーであり、バラエティーに富んだ。
90年代から、アニメ産業に資金供給する向きが生まれ、今で言うベンチャーキャピタルの様相を呈した。
2010年以降、動画配信サービスの普及により、アニメ市場は一気に海外に展開する。海外の市場額は5倍にもなった。
ゲーム産業の変遷についても言及。
米国ではゲーム産業は一度死んだ産業だった。そのタイミングで任天堂は一気に攻勢をかけ、覇権を握った。任天堂の売上=世界のゲームの売上、という時代があった。
現在は、市場規模で言えばテンセントが首位。
ポケモンの誕生ストーリーは泣けてしまう。ゲームフリークというたった二人が興した会社がポケモンを任天堂に提案する。任天堂はそれに飛びつき、資金を出す。しかし開発力に難あり、ポケモンの開発には6年かかった。最終的な開発メンバーは9人。
モバイルゲームについては、その市場を急速に伸長したものの、ライフサイクルは早かった。画像を届けるのは得意だったが、キャラクターに愛着をもたせるのは難しい。結果、商流が広がらない。運営費や広告費と言った自重で潰れてしまう。
ジャンプの6代目の編集長の有能さがすごい。鳥山明を発掘し、ドラクエのイラストを書かせたり、スクエニとエニックスでクロノ・トリガーを作らせたり、すごい手腕。
メディアミックスの起点はやはりアニメとなる。漫画だと、音声や背景など、確定していないことが多すぎる。
ポケモンでは「原作3社」はゲームに集中した。アニメ展開については小学館が管轄。さらに小学館は様々な業界に仕事を委託。(ポケモンカレーはハウス、など)これによって、ゲーム以外にも大きな市場が展開されることとなった。
このライセンスビジネスのプロモーション最大化であり、キャラクター経済圏という無形の文化商品ビジネスを成り立たせている。
第二章 2.5次元ライブコンテンツ創世記
ネットが普及した今でも、ロケーションビジネス、というかリアルなものの市場は伸びている。キーは共体験をすること。
儲かっている部門では、メーカーがサービス事業化している。一度きりの体験ではなく、ストリーム的な体験を提供している。2.5次元のメディアミックスにより、キャラクター経済圏を構築している。これが2010年代の動き。
アニメの作るムーブメントはクール(放送期間)の終了とともに、一度冷えざるを得ない。が、バンドリはゲーム展開もすることで、人気を持続させた。これぞ二次元と三次元のミックス。2.5次元の経済圏。
ブームは作りやすくなったが、維持コストは高くなった。コンテンツビジネスは、今や総合力勝負。ターゲットクラスタを発見し、チャネルを持ち、コンテンツを提供し続け、適切なタイミングで価値に気づかせる。
ドラえもんとクレヨンしんちゃんという人気コンテンツを抑えて、アニメ映画の興行収入トップを誇るのが名探偵コナン。有名声優の起用など、巧みにコンテンツ戦略を行ってきたため。
群衆心理的には、ヒットしてるからヒットする、というポイントも見逃せない。
オタクは一般消費者に比べて、消費学が2倍。さらにブランドへのロイヤリティが高く、生涯の消費額は3倍にもなる。
第三章 オタク経済圏のグローバル化
涼宮ハルヒの憂鬱のDVDは、日本での売上が8万本、アメリカでは6万本。価格差を考慮するとマーケットとして同程度。
日本のオタクイベント(コミケ)の伸びは2010代にいったん頭打ちとなる。一方、アメリカでは20-30年遅れてブームが来て降り、毎年10%の勢いで伸長している。
何が海外オタク層を育んだかと言えば、2000代の海賊版が挙げられる。市場として売上には貢献しなかったものの、コンテンツの人気には貢献していた。
そして、サブスクと動画配信サービスが一気にマーケットを広げた。世界中で、日本と同じタイミングで新作が見れるようになったことにも注目。
キャラクター経済圏を作るのは非常に難しい。ゲーム、アニメ、イベントなど、商流によって流儀がまちまちなので、その同期を図るのは至難の業。
第四章 3次元の逡巡 プラットフォームの時代からコミュニティの時代へ
新日本プロレスの話。新日本プロレスは、一度テレビから見放された。が、ブシロードによる買収以降、売上高は急回復。
プロレスを体験型コンテンツと据えて、ライブコンテンツ経営を行ったため。
現代のテレビ業界にとって、結果がわからないスポーツというものは、ライブ感コンテンツとして最後の砦。
また、プロレスの選手生命は野球やサッカーに比べると長い。これによって世代を越えた共通体験を作り出す。
一方、北米ではWWEの一強となっている。どちらかと言うと、スポーツというよりマイクパフォーマンスなどの演出に力を入れ、さらに放映権など映像としての収益が大きいが。
WWEは世界中のすべてのスポーツ団体の中で、最も収益を上げている。
日本の野球に関しては、テレビ依存が強く、親会社からの赤字補填が期待できる。さらに新日本プロレスが独自市場であるのに対して、野球は欧米の二次市場でしかない。ゆえに、海外展開できていない。
テレビ依存が薄まり、独自に収支改善を行ったプロレスは、それ単体で収益化ができた。プロレスに限らず、海外展開が成功しているゲーム、アニメなどは、旧来のマスメディアへの距離感が遠い。
海外展開に失敗している市場として、国内マス展開に成功しているという点がある。海外展開のインセンティブが失われる。
アニメやゲームは「なぜか」最初からボーダレス商品だった。しかし、さらなる展開にはローカライズとグルーバル化は必要かもしれない。
第五章 日本型グローバル経営2.5
(割愛)
星評価
★★★★★