レビュー
コロナ禍という切り口で、6人の知識人が持論を展開する。
「ライフ・シフト」のリンダ・グラットン 「銃・病原菌・鉄」のジャレド・ダイアモンド 「the four GAFA」のスコット・ギャロウェイ そして経済学者のポール・クルーグマンなど。
なんともすごい面子だ。
内容については、それぞれが得意とする領域について書かれる。
これからの世界情勢、AIと人工知能、働き方、GAFAの行く末、経済動向など…。たいへん知的好奇心をくすぐるラインナップ。
すべてのパートは20〜30ページほど。さらっと読めてしまう。しかし確実にエッセンスが詰まっているのは、さすがその道のエキスパートと言ったところ。
もし気になったパートがあれば、彼らの著作を読んで深堀りするのも良いかもしれない。そういう意味では、パンフレット的な1冊でもあった。
無粋な言い方だけど、非常にコスパが良い一冊。幅広い読者におすすめ。
引用
ここからは書籍の内容からの引用と抜粋。
独裁国家はパンデミックに強いのか - ジャレド・ダイアモンド
日本はパンデミック対策に恵まれており、その理由は統制が取りやすい点にある。国民は自由が制限されることへの反発が少ない。
独裁国家がパンデミックに強いかと言えば、微妙。情報隠蔽のような悪い判断も強行できてしまう。
ジャレドは、野生動物市場の規制を主張。なぜなら、ウィルスは近い種別の生き物の間で感染しやすい。哺乳類から人間への感染を警戒。2002年に流行したSARSもまた、野生動物に端を発する。
アメリカでは民主党か共和党かで政治が二極化しており、これが民主主義を脅かしていた。しかしコロナウイルスにより、ある意味一丸となって対応、的な連帯感が出た。
黒死病やペストはパンデミックではなく、特定地域に留まるエピデミック。飛行機がパンデミックのリスクを大きくする。
ウィルスの目的は増殖すること。死は副次的なもの。咳や下痢を起こさせるのは、増えるため。
ジャレドのコロナウイルス対策は、外出を控えることと、保障を出すこと。
コロナウイルス、というか新種のウィルスの注意点は、獲得された免疫がどれくらい持続するかわからない点。はしかや百日咳の場合、終生免疫。コロナウイルスで獲得される免疫が終生免疫なら、一年ほどで終息する。
日本の危機について。ジャレドは人口減少はアドバンテージも持つと説く。必要とする資源が減るのは良いことだし、人口の少ない国で経済力のある国は他にある。オーストラリア、シンガポール、フィンランドなど。また、高齢化については、日本の高齢者は比較的健康なので、若者世代にかける負担は少ない。
問題は定年退職制度。アメリカではパイロットなどの特殊な職を除き、定年退職は違法。
ジャレド自身、最も生産的だったのは70代だったと振り返る。
労働力不足について、移民の受け入れが考えられる。もちろん移民による問題もあるので(特に日本のような均質社会では)、ベネフィットとリスクのバランスするポイントを考える。
日本で男女不平等なのは歴史的経緯があり、改善にはエネルギーを要する。しかし、日本の女性の教育水準は高いので、労働力になれば非常に強力。
多くの国では、市民は自国について悲観的。日本の経済力は自国民が思うほど凋落してはいない。
日本はアメリカに頼らず、自力で国防できるべき。しかしそれは軍事力によってではなく、対話によって。過去の歴史から、日本の軍拡は周辺地域に緊張感をもたらしてしまう。
21世紀が中国の時代になるか、という話について。中国の最大のディスアドバンテージは民主主義を未獲得であること。独裁国家である限り、文革で教育システムを破壊したり、大躍進で3000万人を餓死させたり、そういうことが発生する。
民主主義の本質は投票。ちなみにアメリカでは、投票するには有権者登録が必要で、有権者登録できる国民の数は減少傾向にある。
AIで人類はレジリエントになれる - マックス・テグマーク
コロナ禍で、思っていたほど人類はレジリエントでないことが明らかになった。リスクが複雑化する世界で、人類はレジリエントになる必要がある。
パンデミック対策は情報戦。行動履歴のような個人情報をいかに集めることができるか、それでいてプライバシーを守るか。
科学実験の多くのシュミレーションを自動化したように、ワクチン開発においてもAIは有効。
アルファ碁は特化型のAI。汎用型のAIはAGIと呼ばれる。大切なのは「いつ実現できるか」ではなく「いつか実現できる」という事実。
「データは新しい石油」について。AIが高度化するに従って、学習に必要なデータ量は減っていく。そういう意味では中国のように大量のデータを保有することのアドバンテージは、将来的に消えていく。
ただし、安価化していく自動兵器は禁止されるべき。
テクノロジーの進歩は遅く、実感しづらい。ので、未来に何が起こるか予測するのではなく、今起こっていることを理解する。そして柔軟に対応し続ける。
AIの安全工学について。生物学では、生物兵器を禁止し、超えてはならない一線を定義した。それをAIの開発にも組み込むべき、と筆者は主張。
ロックダウンで生まれた新しい働き方 - リンダ・グラットン
在宅勤務により、若者以外にもデジタルスキルの向上が起こっている。
日本にとっては、労働時間や生産性で他国に遅れを取っていたが、パンデミックによって強制的に「働き方改革」を果たす好機を得た。
日本は高齢化問題のトップランナー。次は中国で、それも急速に高齢化が進む。
リンダはよく日本の状況を質問されるらしい。
日本が高齢化問題への対策で模範となれるかどうか。
年齢と言っても、ただの指標の一つ。社会的年齢、身体的年齢がある。大切なのは年齢へのステレオタイプな考えを改めること。
これまで教育、労働、引退というシンプルだった人生は、これからはマルチステージ化していく。
不動産や株式のような有形資産も大事だけど、3つの無形資産も大事。生産性資産(専門スキル、人間関係)、活力資産(肉体的健康、精神的健康)、変身資産(柔軟性、多様性)。
ロボットやAIの時代、よりいっそう人間らしい力が必要。それは認知能力ではなく、共感力や想像力、理解力、交渉力など。そういう意味では高齢者にチャンスはある。
ポストコロナでは4つの要素が重要に。 - 透明性: リーダーの説明責任が強まる、在宅ワーカは成果が明確となる。 - 共同創造: 協力して未来をつくる。 - 忍耐力 - 平静さ
コロナとあまり関係ない、というかこの方の主張は普遍性が強いのでどんなトピックとでも絡められる印章。
認知バイアスが感染症対策を遅らせた - スティーブン・ピンカー
ハーバード大学心理学教授。暴力の人類史、21世紀の啓蒙、などの著者。
長いスパンのデータを見ると、人類を取り巻く環境は良くなっている。長寿化、増産、疫病克服、テクノロジー進歩。
感染症は戦争を起こさない。むしろ、戦争でインフラが破壊されるから、感染症が蔓延してしまう。
新型コロナのポジティブな側面について。サイエンス、公衆衛生、責任あるメディアの必要性が改めて認知された。専門技能と組織の重要性も見直された。
認知バイアスとは、データよりも印象を優先してしまうこと。
ジャーナリズムが負の認知バイアスを助長してる。悪いニュースは良いニュースよりも報じられるので、人々は世界が良くなっている実感を持てない。この25年で12億の人間が貧困から脱したが、そのことは報じられない。なぜなら改善は漸次的。
負の認知バイアスにさいなまれると無力感や諦めが蔓延し、過激派や破壊的なリーダーが魅力的にみえてしまう。
統計とデータに強いかどうかは、知能の高さとは関係がない。むしろ人は信条に基づいて判断してしまう。平和主義者は犯罪率上昇のデータを読みとけない、など。
著者からのアドバイスは「落ち着け」。
格差について。人は格差があっても、機会の公正さが担保されていれば許容できる。是正すべきは不公正さ。
新型コロナで強力になったGAFA - スコット・ギャロウェイ
the four GAFA の筆者。
GAFAは益々強大になっている。心の脳に訴えかける。
独占状態は強まる一方で、規制の必要性を論じる段階に来ている。
GAFAはイノベーションを制限するだけではなく、社会の分断という側面がある。クリックとビューを稼ぐアルゴリズムが、怒りを促進する方向へと人々を誘導する危険性をはらむ。
しかし、フェイスブックは自身をメディアではなくプラットフォームであると責任回避。大統領と異なり、マーク・ザッカーバーグには任期がない。あと70年トップにいるかもしれない。歴史的に見れば「権力は腐敗していく」。そして筆者のザッカーバーグの評価は、アメリカの在り方や国際社会に関心がない。
過去の事象について。EUではGDPRに代表されるように、GAFAへの反発感情がある。2016年のアメリカでは、ケンブリッジ・アナリティカがフェイスブック上に「性格診断アプリ」を設置し、政治的志向を収集。それが大統領選挙でトランプ陣営に不当に利用されてしまった。
ワシントンにはアマゾンのフルタイムのロビイストが100人いて、アマゾンに不利な法律が制定されないか注視している。
ただし、GAFAの中でも食い合いが起きている。しかし筆者の見立てでは、アマゾンが飛び抜けている。AWSは盤石で、Amazon Echoは革新的だった。(Google Homeもあるが、アメリカでのシェアは7割がAmazon Echo。アマゾンとどこかが戦うと大抵アマゾンが勝つ)
株式市場は好況に沸く。株価は実体経済全体ではなく、富裕層トップ10%の経済的繁栄を反映している。10%が株式の80%を所有している。
Next GAFAとして挙げられているのは、テクノロジーとイノベーションをヘルスケアに投資し、応用する人。ヘルスケアの進化は時間の短縮につながる。今、大半の人がコスト節約に重点を置く。
景気対策はスウィッシュ型となる - ポール・クルーグマン
リフレ派の経済学者。アベノミクスの理論的支柱ともなった。
コロナウィルスの感染リスクについて。ホワイトワーカーでもブルーワーカーでも変わらない。ムラがある。ただし都市と地方には格差がある。地方では感染スピードが遅いので、だんだんと被害が増えていく。
コロナ禍において、人々は消費よりも貯蓄に走る可能性あり。これが景気回復を遅らせる。
また、景気動向についてはスウィッシュ型になると予測される。(ナイキのロゴのような形)
コロナ以前から、世界はリスクに満ちており、景況感は良くなかった。
日本経済について。オリンピックの恩恵は大きくはなかっただろうとの予測。一方で2019年10月の消費増税はすべきでなかったと筆者は語る。
日本の課題はインフレ率を上げること。でないと、経済成長できない。インフレ率が上がると貨幣価値が下がり、1100兆円の債務も相対的に軽減される。
しかし、個人消費が伸び悩み、企業も賃上げをしないので、政府が財政出動するしかない。異次元の緩和は財政出動として正解で、大きな期待をされていたが、真逆の緊縮財政である増税をしてしまった。
EUは通貨連合でありトップダウンの政策決定はできない。強者であるドイツが消極的である以上、大きな期待はできない。 米中貿易摩擦の勝者はいない。両者とも傷を負った。
トランプ再選は経済的にはマイナス。
以上、抜粋。