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【日本が劣化した平成という時代】わたしたちはなぜこんなに貧しくなったのか - 荻原博子

レビュー

毎日新聞のコラムでこの筆者のことを知った。新刊が発売されるとのことで、気になって買ってみた。

「平成というのは、日本という国が劣化していった30年間だった。」冒頭からいきなり惹きつけられてしまう。

本書では、年金・消費税・金融機関というカテゴリごとに、それらがたどってきた歴史を紐解いていく。昭和時代に生まれ育った制度が、平成時代にどのように劣化していったのか。たいへん分かりやすく解説される。

随所には、筆者が実際に見聞きした時代の片鱗が垣間見える。銀行口座のためにシティバンクに列をつくった人々…など、まるで情景が浮かぶようだった。

昨今のニュースを見ていると、政治の劣化が激しいと感じてしまう。けれど、それは今に始まったことではなかった。大蔵省の利権や、「痛みをともなう改革」など、嘘はずっと前から始まっていた。日本の経済史に関して、歴史認識が深まる1冊。大変読みやすく、内容も読み応えがあった。

引用・抜粋

第一章 危うくなった年金

厚生労働省の公表によると、いまの若者世代は保険料に対して2.3倍の保険金がもらえる。しかし、ここには4つのカラクリがある。

一つ目は、2.3倍の根拠となるモデル世帯の設定。20歳で結婚し、妻が定年まで専業主婦でいる前提となっている。つまり、納付額に対する受給額が最大化する設定。

二つ目は、労使折半の企業側負担が考慮されていない点。

三つ目は、公的年金には税金が投入されているが、そのことが度外視されている。2017年の年金支給額51兆円のうち、11兆円が税金由来。

四つ目は、受給開始年齢を引き上げようとしているくせに、計算上の受給開始年齢が65歳のまま。

日本の年金制度は複雑で、理解するのが難しい。なぜかと言うと、長期的な展望がなく、コロコロとシステムを変えてきたから。更に言うと、年金利権に群がる政治家たちの影響もある。

ちなみに、現在の賦課方式を辞めるには、現在の債務を解消する必要があり、一人あたり1000万円払う必要がある。

日本の公的年金の始まりは、ナチスドイツの制度を真似た「労働者年金保険」。このときはまだ積立方式だった。(ちなみに、保険料の多くは戦費に消えたと推察され、戦災で生き残った加入者は半減してしまった

戦後、日本は激しいインフレにさらされた。事実上破綻していた債務状態は軽くなったが、受け取れる年金も1/15になってしまった。

年金への不満が高まると、労働者サイドの政党に追い風となるため、自民党55年体制)は福祉政策を掲げて年金を賦課方式に変更した。これにより、お金が足りないどころか、将来にどんどんツケを回せるようになり、年金財政は潤った。

当時は人口増加期だったので、年金制度はさながら金のなる木だった。ここに目をつけたのが田中角栄。保険料を大きな財源として、日本列島改造に投入していった。

自民党の票田は高齢者。人気取りのために、どんどん受給額を上げていった。しかし、保険料を上げるのは反感を買うので受給額の増分には追いついていなかった。

公的年金を扱う社会保険庁による汚職や失敗、さらに年金福祉事業団によるグリーンピアをはじめとした大赤字を出した天下りなど、年金周りの利権は凄まじかった。今ではGPIFと名称を変え、株屋となっている。

その後、サラリーマンが増えたことにより、国民年金の加入者が減少した。元々、会社員と自営業の割合は半々だった。さらに、国民年金は天引きではないので、厚生年金よりも未納率が高かった。そこで、国民年金の将来が危ぶまれてきた。そこで導入されたのが、年金の基礎部分という考え。

また、共済年金についても同様で、収支バランスが悪くなってきたので、厚生年金と一元化された。

少子高齢化の懸念は昭和からあったが、当時はイケイケな空気に負けていた。痛みを伴う年金改革が始まったのが平成に入ってから。小渕政権にて、年金受給開始年齢を引き上げ、「50年安心の年金制度」となった。

これを100年安心にしたのが、小泉政権。保険料を毎年引き上げ、物価スライドからマクロ経済スライドに変更。平均給与が下がったのに、保険料は上がった。しかも、公約のために、厚生労働省は無理のある試算まで行って100年安心を裏付けた。

令和になり、100年安心が国民の老後ではなく、政府の安心であったことが分かる。

第二章 30年間、納税者を騙し続けた「消費税」

消費税は、平成元年に3%として導入され、30年かけて10%まで引き上げられてきた。

消費税の税収のうち8割は国の借金返済に宛てられている。

消費税は今や、所得税法人税を超える最大の税収となっている。さらに、前者と異なり、景気に左右されない。

国民は消費税を納税義務だと思ってるが、納税義務があるのは事業者。消費税の欠陥として、益税が認められている。

消費税の導入は大蔵省時代からの財務省の悲願だった。国民の強い反発による2度の挫折を経て、竹下登内閣で導入が決定。3%という低い水準での導入。さらに、事業者によっては免税や、簡易納税を認めた。つまり、アメをばら撒いたようなもの。

アメを縮小させるのがインボイス方式。さらに、これにより複数税率が可能となる。より、大衆に消費増税を納得させやすくなり(生活必需品は据え置きで、贅沢品だけ値上げするよ、など)、トータルで税収を増やす。

輸出事業者は消費税が免除されている。各国で消費税が異なるため。それまでにかかった費用を還付金という形で受け取る。それゆえに、輸出事業者が根付く自治体では、税務署が赤字になっている。

医療機関も消費税の免税対象であり患者が払う医療費に消費税は含まれない。けど、機材などの購入には税金を払う。消費税が上がれば上がるほど、医療費の損税は膨らむ。

法人税は平成に7回減税され、40%から約半分になった。減税理由は日本企業の国際競争力を損なわないため、だったが国際競争力は下がる一方。

消費税増税に世論を傾けるために外圧を利用する、というのは財務省がよく使う手。IMFが日本は消費税を上げないと破綻する、と言うが、IMFのナンバー2スポンサーは日本で、財務省から人材が送り込まれている。さらに、ナンバー2ポストに日本人が。(ナンバーワンポストは暗黙的に欧米選出)

消費税が目立ってしまうが、平成という時代は増税の時代で、その他にも様々な増税や税の新設が行われた。その1つの原因は、党税調のパワーが衰え、税のスペシャリストが去っていったこと。抑えが効かなくなり、各省庁や自治体が勝手に税を唱えるようになった。本来、税は公平性が重要なので、全体のバランスを見る必要がある。

第三章 なぜ、みんな「シティバンク」に騙されたのか?

筆者曰く、シティバンクはペリー・マッカーサーに続く第三の黒船。大蔵省に守られてガラパゴス化していた日本の金融に外資の風をもたらした。

ちなみに、その当時である平成元年、アメリカでは金融危機が起こり、シティバンクも行政機関の監視下に置かれるほどだった。それが、日本での拡大の原動力。

シティバンクは日本に本格的に進出し、4兆円の預金をつくることに成功した。外貨預金という、手数料が取れてリスクは預金者に押し付けられるビジネスモデル。

戦後50年、大蔵省は徹底して貯蓄教育を国民に行ってきた。さらに国内銀行への影響力も強く、銀行は決して「品のない」定期預金など提供できなかった。定期預金と普通預金金利が自由化するのが93年、94年のこと。国民は金利なんてどこも同じ、と思い込んでいた。それを逆手に取ったのが、シティバンク。あたかも高水準な金利を見せかけ、口座開設のために行列ができた。

シティバンクは3度の業務停止命令を受けたが、これはかなり甘い処分。シティバンクアメリカ本土で共和党のブッシュと民主党のケリーに献金をしていた。なので、背後にアメリカがいるようなものだった。

シティバンクはその後撤退していくが、日本人の金融リテラシーが向上し、国内金融機関が力をつけてきたことが原因。

しかし、ゆうちょやかんぽが不正行為をするようになってしまった。

ここで、リーマンショックなどの恐慌に繋がるまでの経済史のおさらい。

アメリカはベトナム戦争日本製品の輸入による財政赤字を抱えていた。そこで、レーガノミクスにより減税と規制緩和を実施。ドル高になったのはいいが、今度は円安によりさらに貿易摩擦がひどくなった。これへの対処がプラザ合意による通貨切り下げ。今度は日本の輸出が苦しくなり、金利引下げを行った。これがバブルの原因。

こういった世界的な金融事情の乱高下を利用したのが、ヘッジファンドブラックマンデーアジア通貨危機、ITバブル崩壊リーマンショックという事件につながる。

ブラックマンデーでは、レイ・ダリオが勝ち、ジョージ・ソロスが負けた。ジョージ・ソロスの売りは、市場の買い気配を弱め、売りが売りを呼ぶ展開となった。

アジア通貨危機について。タイが震源地。ドルペッグ制を取っていたバーツが、ドル高に反応して高くなった。この歪さに攻め入ったのが、ジョージ・ソロスらのヘッジファンド。これがアジアに波及し、外貨準備の少なかった韓国はIMFに助けを求めるほどに。ちなみに、日本はすでに変動相場制に移行していたし、アメリカの言うとおりに米国債を買い続けていたので、アジア通貨危機の影響は大きくなかった。

第四章 日本が「劣化」した平成という時代

ミレニアムはバブル崩壊と共に始まった。大蔵省は不良債権処理に邁進すべきこんなご時世に不祥事を引き起こし(ノーパンしゃぶしゃぶ事件)、解体されていく。

不良債権処理を引き受けたのが小泉政権。小渕が死去、森喜朗が退陣したあと、自民党を壊す、を標榜して就任。経済大臣に竹中平蔵を据えた。しかし、自己資本比率を保ちたい銀行にとって、急激な不良債権処理は逆効果。貸し渋りが発生。リーマンショックを超える企業倒産(黒字倒産)と失業率を叩き出した。

省庁の中の省庁と呼ばれた大蔵省は劣化を続け、ついには2017年に森友学園問題で公文書偽造に手を染める。

アベノミクスの評価について。目標であるインフレ率2%は達成できず、デフレ脱却も未達成。目玉金融政策である異次元緩和について。株を買い支えはしたものの、出口戦略が描けない状態。また、国債発行によって市場にお金をばら撒こうとしたが実際には銀行の外に出ていかず、銀行内に積まれている状態。

また、安倍政権の功績とされている雇用の改善について。たまたま生産人口が減ってきていた。さらに、家計を支えるために働きに出た女性も。非正規雇用が増えたし、ここはコロナで真っ先に切られた層。