- 作者: 深緑野分
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2018/09/26
- メディア: 単行本
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総統の自死、戦勝国による侵略、敗戦。何もかもが傷ついた街で少女と泥棒は何を見るのか。
1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅出つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり―ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。
最注目作家が放つ圧倒的スケールの歴史ミステリ。
レビュー
本作はミステリー小説であり、戦後小説であり、ドイツ小説でもある。
ミステリー的な部分は、クリストフというドイツ人男性が殺害されたことの端を発する。クリストフと関わりのあった本作の主人公のアウグステは、ユダヤ人男性のカフカとともに事件の真相に迫っていく。それはミステリーでもあるし、ちょっとした冒険譚の様相も呈している。
そして戦後小説としては、終盤の1行がずっと心に残っている。 「(あとで引用する)」
自分から大切なものを奪った祖国の破滅すら願うという感情は、一体どれほどのものだったのか。 自分だったらその感情を乗り越えて、戦後の世界を生きていくことができるのだろうか。(実際に、終戦を受け入れることができずに自死を選択する人々が小説の中に登場する) だけど自分は間違いなく、それを経て生きてきた人たちの子孫なんだよなぁと思い至る。地続きなんだ。
そしてあれほど願った戦後の世界なのに、また違った形の不条理が溢れていたということが何よりも辛い。
ドイツ小説としては、日本との違いが浮き彫りになった。 アメリカ・イギリス・フランス・ソ連による分割統治。列強国のパワーの緊迫感は非常に良く描写されていると思った。小説の中ではお互いを罵りためのスラングがぼかされることなく出てくる。 そしてもちろん、ナチスによるユダヤ人の迫害や、同性愛への「治療」が行われていく様は、ゾッとした。
また、戦中と戦後を交互に描くような構成も良かった。2つの時間軸がラストへの収束していく様は、原田マハの「暗幕のゲルニカ」のようだった。
最後の場面は、アウグステは決して純粋な「自由」を手に入れたわけではなく、これからもずっと悩み考えていきていかなければ行けないということを表しているのかな?それは変な美談よりも、非常に現実的で、生きる活力さえもらえたような気がした。
また、作者がこの小説のために行った取材が note にまとめられているので、読んでいない方は是非。
『ベルリンは晴れているか』の取材写真: https://note.mu/fukamidorinowaki/n/nc95728cbcec8
星評価
★★★★★
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