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【金解禁を主軸とした戦後の政局を描く】男子の本懐 - 城山三郎

男子の本懐(新潮文庫)

男子の本懐(新潮文庫)

レビュー

戦後日本における金解禁のドラマを描いた小説。中心となる人物は2人。浜口雄幸井上準之助。彼らは性格こそ正反対だったものの、魂から通じ合い、戦後の日本経済に大きく関与した。

あらすじを見て、「経済小説」と理解した。今までそのような小説をあまり読んでこなかったため、興味を持って手にとってみた。

まず、文量以上に密度が濃い。ページ数自体は450ページほど。しかし、参考文献は40点を超える。筆者の城山さんは相当に詳しく研究されたのだと思う。小説でもあって、史実でもある。サクサクと読める部分ばかりではなく、飲み下すのに時間がかかる箇所もあった。

内容については、金解禁自体はあっさりと達成される。物語の1部分に過ぎない、という印象。

それよりも浜口と井上の人生全体を丁寧に描いていく。子ども時代、学生時代、現役時代、そして晩年。戦中から戦後を生きた二人の大物の生涯を追体験するような1冊。浜口が斃れた後に井上が孤軍奮闘する様には胸が熱くなった。

それから、経済だけではなく政治の描写も多い。経済と政治は不可分と分かりつつも、当時の政局や世論についてはあまり興味を持って読めなかったかもしれない。

無機質な歴史的資料ではない1本の小説として、金解禁への道筋と2つの偉大な人生を描き切ったことに大きな価値を感じた。けれども、評価としては星3つと言ったところかな。淡々と描写される部分が多い。のめり込めない箇所が多かったことは否めない。

間違っても、読書初心者にはオススメできない本。経済的な好奇心を持つ読者なら、感じるところがあるかもしれない。


以下、読書メモ。

天皇の存在感が大きい。

浜口内閣の金本位制の導入は、経済対策だったのか

民政党は緊縮財政派。しかし組閣時、肝心の大蔵大臣のポストが空だった。

貴族院というものがあったのか。浜口内閣の前内閣は、貴族院議員を入閣させなかったことが、良い評判を受けたらしい。

井上準之助は、民政党の財政通を抑え、入閣した。井上は貴族院の勅撰議員で、しかも反対党派の政友会寄り。

前首相から健康の秘訣として「週末は休むために遊ぶこと」と教わった浜口は、「まず出かけるのが面倒と思ってしまう。なんと親しみを感じる人柄。

猫が可愛い。

一軒家に住みたくなる。

浜口内閣は「十大政綱」を公開し、その目玉は金解禁だった。

ちなみに、金輸出が禁止されたのは1917年の寺内内閣の時。

金本位制とは、国際経済の安定化を図ったもの。輸出入の差は、各国の金の保有量でリバランスされる。金の保有量に応じて、紙幣の発行もバランスされる。

金解禁前の日本は、通貨不安定国認定されていた。事実、投機筋による為替差損に、国内経済は悩まされていた。

さらに、金解禁で通貨発行が抑制できれぼ、国内の軍拡にも歯止めがかかる、との狙いもあった。

浜口が鎌倉の別荘で「何もしない」一方、ゴルフを持ち込んだ日本人である井上はゴルフ。日曜の過ごし方が真逆で面白い。

議員、株トレーダー、銀行員、主婦など、様々な層に金解禁の重要性を説いて回る二人の姿が熱い。

第一章は浜口の子ども時代〜学生時代について。 浜口は元々、別の家の三男坊だったが、能力や人柄を見込まれて養子に取られた。

第ニ章は井上の子ども時代〜日銀で働き出すまで。 波乱万丈の子ども時代を経て、輝かしいキャリアをスタートさせる。

第三章では、浜口の地味で不遇なキャリアと、井上の派手で順調なキャリアが順番に語られる。ここでも二人は対照的で面白い。

赴任先で西洋的な合理主義を導入し、定時退社を奨励する井上は理想の上司と言った感じ。

ニューヨークに左遷された井上。船で渡米し、ニューヨークまで陸路となる。ロッキー山脈を通過したりと、当時の移動の大変さを改めて知る思い。

渋沢栄一が登場。

浜口は数年間、塩田整理の任務にあたる。その間、官僚のポストを勧められたこともあったが、自分の仕事を完遂したいという理由で断る。

塩田整理をやり遂げた浜口は天皇から金盃を授かる。頑張った役人に天皇が盃を与える時代…すごい。

浜口が次官のポストに収まるやいなや、第一次世界大戦が始まる。その最中にお互いを認めていった浜口と井上。いいね。

井上は原敬内閣の時に、日銀総裁となった。平民宰相としては、閥族にとらわれない新鮮な人事を打ち出したかった。また、大蔵大臣の高橋是清からも、井上は力量を買われていた。

戦後の活況に関して、井上は加熱感を抑えるべく金解禁を狙っていた。しかし、高橋是清は積極財政派ではなかったため、仕方なく日銀は二度の利下げをするにとどまった。

加藤高明内閣にて、浜口はついに大蔵大臣となる。財政見直しなど行ったものの、経済環境を見て金解禁にはまだ慎重派だった。

金解禁の布石として、減俸を行おうとするも激しい反撥にあう。これによって、浜口や主に井上は大きくバッシングされる。特にマスメディアの論調は酷く、減俸はいったん取りやめとなった。

日本の節約財政を評価した英米から1億のクレジットを得ることができ、旧幣価ながらも、金解禁の大蔵省令を出すことができた。

しかし同時に、政界周りで不信な死を遂げる者が現れ、危機感が走り始めた。

浜口らは、枢密院の妨害にあうものの、最後にはそれを跳ね除けることができた。

浜口の晩年というか最期は切ない。重ねて、世界各国が金本位制から離脱していく様が、1つの時代の終わりを感じさせて胸に来るものがあった。

浜口に先立たれる形となった井上が、世界経済の大混乱に対して、日本経済を守ろうと奮闘する様は泣けた。

星評価

★★★☆☆

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文庫本:

男子の本懐(新潮文庫)

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