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この地上において私たちを満足させるもの - 乙川優三郎

この地上において私たちを満足させるもの

この地上において私たちを満足させるもの

戦後の房総半島からヨーロッパ、アジア、そして日本で。そこでは灰色の人生も輝き、沸々と命が燃えていた。あのとき、自分を生きる日々がはじまった――。縁あって若い者と語らううち、作家高橋光洋の古い記憶のフィルムがまわり始める。戦後、父と母を失い、家庭は崩壊、就職先で垣間見た社会の表裏、未だ見ぬものに憧れて漂泊したパリ、コスタ・デル・ソル、フィリピンの日々と異国で生きる人々、40歳の死線を越えてからのデビュー、生みの苦しみ。

著者の原点と歳月を刻む書下ろし長篇。

レビュー

小説家が自らの人生を振り返る、という形での小説。人生のそれぞれの場面が、各章を構成している。その構成が飽きさせずにサクサクと読ませる。

出生と労働争議の章については、自分が生まれる遥か前の時代について、まるでその空気感が伝わってくるようだった。 海外を放浪する期間については、ある種の紀行小説のようでもあり、旅情を強く誘われた。 後半の作家としての章は、静かながらも滾るような情熱を感じた。文字通り命を削って執筆にあたる主人公に、晩年のロールモデルを見た思いだった。

とにかく文章が美しいと感じた。なんて円熟味のある文章。そして初見の単語が多くて、何度もオンライン辞書のお世話になった。 正直なところ、タイトルだけで購入を決めたのだけど笑、他の著作も読みたいと思わされた。 本当に贅沢な読書体験だった。

星評価

★★★★★

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