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【社会派 震災小説】女たちの避難所 - 垣谷美雨

女たちの避難所 (新潮文庫)

女たちの避難所 (新潮文庫)

九死に一生を得た福子は津波から助けた少年と、乳飲み子を抱えた遠乃は舅や義兄と、息子とはぐれたシングルマザーの渚は一人、避難所へ向かった。

だがそこは、“絆”を盾に段ボールの仕切りも使わせない監視社会。男尊女卑が蔓延り、美しい遠乃は好奇の目の中、授乳もままならなかった。

やがて虐げられた女たちは静かに怒り、立ち上がる。憤りで読む手が止まらぬ衝撃の震災小説。

レビュー

老朽化するマイホームの問題、老年介護の問題、そして老後の資金の問題。 そういった社会問題を、エンタメ小説として見事に昇華させてきた柿谷美雨。そんな彼女が本作で取り上げたのが、震災後の避難所での生活について。

本作「女の避難所」では、震災によって避難所生活を余儀なくされた3人の女性にスポットライトを当てている。

そもそも3人は震災以前から問題に悩まされていた。

酒とパチンコに依存している無職の旦那を持つ女。嫁ぎ先の親族から冷遇される女。母子家庭となり周囲から風当たりの強い生活を送る女。 そういった問題は、震災後にプリミティブな段階まで堕ちた社会集団の中でより深刻度を増す。

今まで目を逸らしていた人生の問題と、震災後の極限状況とが混じり合った時、女たちは「殺してやろうか」「いっそ死んでしまおうか」という超えてはいけないラインに出会うことになる。

とは言えこの小説は、震災後の状況そのものについても色濃く描写してくれる。

・より深刻な被災者に配慮して、自分の損害を過小評価してしまうこと ・災害後には生活を維持することに必死なり、大局的な権利意識が抑圧されてしまうこと ・富めるものはいち早く脱出を図り、都会からは物見遊山で失礼なボランティアや見物人が訪れる。そんな状況の中で尊厳が損なわれ、惨めな気分になっていくこと

被災地でのそういった根源的な問題がしっかりと描かれる。

本来ならとても重く、時には絶望を感じるようなストーリーのはずなのに、だけどスラスラと一気読みできてしまうのは垣谷美雨の本領発揮と言ったところ。 この作者だからこそ、また震災という問題に向き合うことができた。とても社会的に意義のある、文句なしの社会派エンタメ小説だった。

そしてやっぱり、最後には救いがある。女たちには全く新しい次の世界が待っている。その世界はもちろん厳しさも備えたものなのだけど、清濁併せた未来に向かっていく3人の女は、最高に輝いて見えた。

星評価

★★★★★

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