レビュー
この作者の悲しみの雰囲気づくりは何なんだろう。少しだけ癖になりそう。 ハッキリと書くことなく、ジワリと滲ませる感じ。
表題作の「夏の約束」について。 MtFの美容師がひょんなことから入院することになる。 友人らがお見舞いに行くと、同じ病室の男性から心無い言葉を聞いてしまう。
"隣のベッドに新しく入った中年男性が、白髪まじりの坊主あたまをなでまわしながら、あんた、おかまちゃんの友だち?とぎすぎすした声で訊いた"
酷い。あまりの無理解さに頭痛がする。 それでも、友人らは抗議することなく、当の本人が苦しむ描写も為されない。
だけど、一人のゲイとして、あえて描かれなかった部分が容易に想像できてしまう。
この他にも、マルオというゲイの登場人物に為された差別的なアクションがすらすらと書かれる。
決してドラマチックに書かないことで、こんな差別的な言動は日常茶飯事でありふれたものなのだ、ということがむしろ強調されていた。 そっか、1999年の作品。時代はまだ寛容への道すがら…。
同時収録の「主婦と交番」も悪くなかった。 電車恐怖症の主婦から見た世界は、マイノリティの生き方を感じさせて、夏の約束と同じエッセンスを持っていた。 話と登場人物がよりシンプルなだけに、こちらの方が読みやすいかもしれない。
さて、どちらの作品もある種の魅力的な囲気を持ってはいるのだけど、小説として秀でているかと言えば、凡庸さは否めない。ということは付記しておく。 芥川賞、やっぱりよくわからない。
星評価
★★★☆☆
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