レビュー
美術館を作りたいと夢を語った松方。 そしてその夢にほだされた田代。
だけどそのためには、フランス政府に没収されたコレクションの返還が不可欠だった。 戦後の不利な日仏関係のもとでの返還交渉、これは間違いなく熱いストーリーになる。
…と思いきや、返還交渉のシーンまでは100ページ弱の距離がある。 そしていざ返還交渉が始まったかと思いきや、物語は過去の回想シーンへと潜っていく。
けれど気がつけば、松方の回想シーンに没頭している自分がいた。 そして回想はさらに日置のパートへと移っていく。
松方以上にアートに疎い彼の自問自答が印象に残っている。
ー 我々はなぜタブローに運命を狂わされるのか
ー ダブロー(絵画)とは一体何なのか
だけど松方も日置も信じた使命を貫いた。 芸術に明るくない彼らがそれでも芸術の力を信じてバトンを渡していく。
抽象化されたアートがその意味を失って、純化された使命の色を帯びていた。
ここに原田マハの新境地を見た思いだった。
この小説のテーマはきっと、芸術である必要はない。でも芸術だからこそ面白かった。 (支離滅裂な感想だけど、きっと読了した人なら分かってくれるはずw)
そして物語はその終結である美術館の開設へと至る。 返還交渉の直接的な描写はほとんど無かった。まんまとやられた。全く別のアプローチから書いてみせるとは…。
原田マハの美術小説を読み終わると絵画を見に行きたくなる。 そして「美しき愚か者たちのタブロー」は、美術館に行きたくなろうような本だった。美術館自体に対して、全く違った見方ができそうだ。
物語の舞台が「たゆたえども沈まず」と少しだけリンクしている(よね?)のも、ファンとしては嬉しいところ。 と言っても、時代も場所もが少し重なっているだけだけど。だけど林商会という名前につい口元が緩んでしまったw
星評価
★★★★★
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