レビュー
同じ美術小説として、どうしても「楽園のカンヴァス」や「暗幕のゲルニカ」と比べてしまう。 これらは紛れもない傑作なのに、「たゆたえども沈まず」はどうしても霞んで見えてしまった。
どうして霞んで見えたのだろう。 おそらく、フィンセント・ゴッホの苦悩が理解できなかったからだ。そして、弟であるテオの苦悩もまた。
生きづらさを持った人であることは伝わってきた。 芸術家だから、と言ってしまえば簡単だけど、近い目線で理解することができなかった。 きっと自分の優しくない性格が災いしてしまった。
一方で、林と重吉の関係性は良かった。 師弟関係のようであり、ビジネス上の仲間でもあり、異国で奮闘する同志でもある。しかも19世紀のフランスで、だ! 林のビジネスマンっぷりには痺れた。
19世紀パリの日本美術ブームについて。 日本美術、及び日本人が礼賛されるので、読んでいるとナショナリズムが高まる気持ちだったw
タイトルの「たゆたえども沈まず」はパリの強かさを表しているらしい。 けれども物語は達観のように終わっていく。日本人にしろフランス人にしろ、新しいものに難色を示すことはあるけど、結局は受け入れていくよね。皆が良いと言ってるものには迎合しちゃうよね。的な幕引きなので、物語の終わり方とタイトルがマッチしてない感があった。
というわけで、美術小説としてそれなりに楽しめたのだけれど、傑作と呼ぶには物足りなかった。 実在の芸術家がベースになっているので、創作に制限がかかってしまう、ということなのかな。
星評価
★★★★☆
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