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【レビュー】人口減少社会のデザイン - 広井良典

レビュー

「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか」で紹介されていたので、気になって買ってみた。

人口減少と言えば、誰もが逃れることができない大きな社会問題。人口減少や高齢化に関する書籍はこれまでもいくつか読んできた。そんな中で、本書の特徴といえば読みやすさがあるかもしれない。都市デザインや医療や福祉に関する話が出てくるのはもちろんのこと、死生観まで踏み込んだ書籍は珍しいかもしれない。 引用元となる書籍は多く、筆者の主張にはきちんと裏付けがある。その上でアメリカ滞在時の個人的な経験までも挿入されるので、エッセイのような読みやすさを感じた。

しかし一方で、筆者の個人的な思想のようなパートもある。本書の終盤では、個人を超越した価値感として、自然信仰を復刻させようと言うような主張が登場する。そうすることで、行き過ぎた個人主義にブレーキをかけて、福祉に関する思想を変容させようと言う主張だと思われる。が、少しスピリチュアルに傾倒しすぎている感はあり、置き去りにされてしまう読者はいるのではないかと思った。

引用・抜粋

第1章 人口減少社会の意味

日本の人口数のピークは2008年。

近年のトレンドは経済成長観点のGDPよりも、幸福度も加味したもの。

荒川区はGAH(荒川幸福指数)を導入し、区民の幸福度向上を行っている。

経済成長下での全員が同じ方向に向かう時代が終わり、時間軸から空間軸へ。つまり、東京が進んでて地方が遅れてる、ではなく、それぞれの特色を持っていていい。

昭和時代には、UR都市機構という公的都市移住政策が採られていた。ローカル志向の若者が増えた今、逆に地方移住支援施策が必要。

女性の社会進出は少子化の原因ではない。サポート制度があれば問題ない。

第2章 コミニュティと街づくり・地域再生

これからの高齢化は東京で顕著になる。地方からの若者流出のピークは1960年代。当時上京した若者たちが、東京で高齢を迎える。これによって、地方への再分配効果をもっていた年金制度が、東京への富の集中を加速させてしまう。

日本とアメリカでよく似ているのが、車社会であること。生産者(労働者)中心デザイン。そこにはちょっとした居場所がなく、コミュニティが生まれづらい。一方、ヨーロッパは計画的に車を街の中心部から遠ざけてきた。なので、人口10万人規模の街でも賑わいを見せる。

今後の将来像としては、一極集中ではない。とはいえ、多極分散だと密度が低すぎる。複数の都市を中心とした多極集中が理想的。

鎮守の森という考え方。その昔寺は20万あった。それは、日本の共同体の数と一致していたはず。それが合祀されていき、8万減少。市区町村もまた合併より減少。

エネルギーの大半を輸入に頼っている日本だけど、地方にはエネルギー自給率20%を超えるところも。超過分を近隣にエクスポート。

化学と消費の変遷は、物質→エネルギー→情報→生命・時間。

筆者は自然と人間の関わりの重要さを説く。書籍「あなたの子どもには自然が足りない」。

第3章 人類史の中の人口減少・ポスト成長社会

人類史における拡大と成長のサイクルについて。これまで、2度の停滞期があった。それは農耕と近代化が始まる前。物質的な量的拡大が限界に達し、精神的・文化的な発展がやってきた。それらは、心のビッグバンや枢軸時代・精神革命と呼ばれる。そしていま、再びその時代が到来しようとしている。

筆者にとっては、資本主義と市場経済は別物。市場経済とは、透明性のあるもの。資本主義とは富めるものがますます富む、拡大と成長を伴うもの。市場経済は、資本主義の一部。

実際に、人間関係資本の研究やミラーニューロンの研究など、3度目の恒常記の傾向がある。つまり、新しい倫理の転換の兆候がある。しかしその後にはさらに第4の成長拡大期がやってくる。筆者が考える3つのパラダイムは、人間の光合成・地球脱出中進出・ポストヒューマンあるいはシンギュラリティ。

しかし、人工光合成は人口過密の問題を解決しない。宇宙環境が人間に快適とは思われない。また、シンギュラリティも人間に幸福をもたらすかは分からない。これらは結局これまでの近代化(個人が利潤を極大化し、人間が自然を支配する)の延長線でしかない。

第4章 社会保障と資本主義の進化

日本人は場の空気を気にするので、その場で合意を形成することが苦手。結局、その場にいない将来世代にツケを回している。また、過去の、成長が全てを解決していた時代の成功体験が抜けずにいる(特に高齢世代)。

資本主義の成長過程には、成長の一時的な頭打ちによって、都度社会主義的な対策が生まれてきた。再分配、社会保障ケインズ政策など。つまり事後的対応から事前的介入への流れ。

楽園のパラドクスとは、高次に生産性が上がると、ほとんどの人間が失業してしまうこと。極小の労働力で、全体の需要を満たせる。

筆者は人生前半の社会保障が必要と説く。これまでは会社と家族に守られて、リスクは高齢化以降に発生していたが、現代社会では人生前半から保証が必要。しかし日本は先進国の中でもとりわけ人生前半での社会保障が手薄い。 また、筆者が提唱するのはベーシックインカムの部分的導入。若者、地方、町おこしなど。例えば、失業率が8割になって、生活保護の受給率が8割を超えるような状況になった時、ベーシックインカムを全面導入しても良い。

日本では、収入のジニ係数を、貯蓄・土地などのストックのジニ係数が上回る。

年金制度について。報酬比例部分はスリム化すべき、というのが筆者の意見。高収入者の年金が高くなっている現状がある。むしろ基礎部分を手厚くしていくべき。

所得税を1%あげたところでたかが知れているが、消費税収の額は莫大。逆進性のことが言われるがそれはミスリードで、北欧並みの高水準福祉を実現すれば良い。また、税収を利用して、将来世代への負債を減らす。

第5章 医療への新たな視点

アメリカは2M(軍事と医療)に莫大な予算を投じているが、平均寿命が高いわけではない。そもそも、経済発展による平均寿命の伸びは、あるポイントで頭打ちとなる。経済の成熟度以外の要因が作用している。つまり、医療における資源投資のコスパは必ずしも高くはない。

持続可能な医療とは。病気の原因が単一な何かである、というのが旧来の考え方。昨今では、原因が複数あり、環境・社会的な要因も含める。これが、医療のエコロジカル・モデル。

日本では勤務医の方が開業医よりも多い。しかし、病院よりも診療所の数が圧倒的に多く、診療所の声が政治に反映されやすい。その結果、高次医療機能を持ち、チーム医療を担う病院が苦境に立たされている。

第6章 死生観の再構築

高齢化の時代ということは、死亡数が増えていくことが予想される。死生観の再構築が必要。

死に場所の変遷について。昔は8割が自宅で亡くなっていたが、逆転し、2000年代に入り病院死が8割になり完全に逆転。しかし近年、病院死も微減し、死に場所は多様化しつつある。

人生を、右肩上がりの直線ではなく、始点と終点がつながった円環と捉える死生観も。

第7章 持続可能な福祉社会

世界初の株式会社が生まれたイギリスでEU離脱が起こった。パクスアメリカーナと呼ばれたアメリカでトランプ現象が起こった。グローバル化が得ではなくなるとナショナリズム化するという、ある意味では身勝手な動き。

持続可能な社会とは、福祉・環境・経済の3つのポイントで見るのが重要。

日本は古来、経済と倫理という反するように見える2つのものが両立していた。二宮尊徳渋沢栄一など。3方よしといった訓など。しかし、次第にジニ係数は大きくなっていった。

筆者は福祉哲学・福祉思想を見直すことが大事だと主張。まずは個人を立てること、個人の下にはコミュニティがあり、その下に自然が横たわっている。集団を超える価値原理として、自然への信仰の復権を主張。