日々是書評

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【日本でもクオータ制の導入を】女性のいない民主主義 - 前田健太郎

レビュー

「時給はいつでも最低賃金、これって私のせいですか」で紹介されていたので気になって買ってみた。

女性のいない民主主義。一見してジェンダー政治学の本であると分かるのはすごくいいし、とても鮮烈で印象に残るタイトルではある。

内容に関しては、200ページと言う分量よりも多く感じた。それもそのはずで、この本はジェンダーに関する本と言うよりは、政治学と言う縦軸とジェンダーと言う横軸で展開される、面のような内容となっている。

政治におけるジェンダーについて知るには、そもそも政治学のあり方や歴史に関して知る必要があるためだ。そうして、従来の政治や民主主義の中に存在している男女不平等が見えるようになってくる。

男女平等が進展したスウェーデンにおいてさえも、女性主体の政党は存在しておらず、やはりジェンダークオーター制のような仕組みを導入することがマストだとよくわかった。

面白かった。ジェンダーだけではなく政治に関しても勉強になるし、あとがきで分かる筆者の熱く深い優しさに触れたのも良い読書体験だった。

引用・抜粋

第1章 政治とは何か

男女の構成員比率の格差を是正するためには、女性比率を30%以上にする必要がある。これはもともとを核分裂反応に起きる最小の質量を示すクリティカルマス理論に由来する。

政治的なアジェンダとしてジェンダーが問題にならなかったのは、決して日本のジェンダー深刻度が低かったわけではない。そこに関連性はない。むしろ日本は男女の賃金格差が多く、かつ女性のケア労働の時間が男性に比べてとても多い。

争点を産むためにはまずは話し合いをする必要がある。しかし話し合いが決裂すると投票といった政治的な行動に移行する。

権力の三つの次元について。多数決の行方を左右するなど明示的な行動の変化をもたらす権力は表面的な1次元的権力に過ぎない。むしろ多くの問題はそもそも政治の争点になること自体を妨げられ現状の変更が阻止されている。このような問題の争点化を防ぐ権力は二次元的権力と呼ばれる。さらに当店が完全に隠蔽されると当事者すら問題の所在に気づかなくなるこのような現状に対する不満を抑圧し紛争自体を消滅させる権力を三次元的権力と呼ぶ。

第2章 民主主義の定義を考え直す

独裁国家よりかは民主主義国家の方が、民主主義という観点ではベター。しかし、民主主義国家だからと言って、男女平等が実現するわけではない。女性参政権が導入されても、必ずしも女性議員が増えるわけではない。男性優位の社会的な価値観が温存されていれば、男性が選出される。社会の構成員のバランスが、代表者のバランスに反映されることを、描写的代表と呼ぶ。

民主主義国家の代表のようなフランスやスイスだが、女性の参政権の導入はアメリカの方が先だった。さらに、世界で初めて女性の参政権を認めたのはニュージーランドで、被選挙権はフィンランド

女性の参政権について、戦中から戦後にかけて、以下のような空気の変遷があった。

・国を守る人には、参政権を認めなければいけない ・国民国家は、女性参政権を認めなければならない ・文明国は、女性参政権を導入しなければならない

第3章 「政策」は誰のためのものか

従来の福祉政策は男性のためのものだと考えられる。手当を男性に対して支給して、それが家庭の中で女性に対しても巡って行くという構造。女性は男性労働者を支えるために家事労働などを無償で行う。

スウェーデンでは男女平等の度合いが高く福祉政策も充実している。アメリカでは男女平等と度合いは低くはないが、福祉の財政支出は小さい。日本は特殊で、男女平等の度合いは低いものの、福祉支出が大きい。これは先述の、家族主義の傾向が大きいため。

拒否権プレイヤーとは、政策の作成過程における拒否権を持つ人物のこと。拒否権プレイヤーが増えるほどを法律は成立しづらくなる。

議員立法は立法のメインストリームではないが、男女平等の政策の実現に関しては大きな役割を果たしてきた。

男性リーダーシップの限界。日本において男女平等の政策は何かを実現するための補助的なものとして実現してきた。少子高齢化対策や、支持率回復目的など。

第4章 誰が、どのように「政治家」になるのか

1989年に社会党の党首が土井たか子となりマドンナブームを引き起こし、女性議員数が少しずつ増え始めた。

政治家の女性議員の比率を30%以上にするというクリティカルマス理論に関して、近年ではそれだけでは不十分でクリティカルアクターと呼ばれる不平等を是正する政治家の登場が必要だと言われ始めている。

インドでは女性議員の比率を強制的に 1/3にするような仕組みが導入されている。

日本では男性と女性の投票比率はほぼ同じになっているが男性候補者の方が当選数が多い。 その理由としては日本と韓国は、男性が政治家になって女性が政治家になるべきではないと考えている人の割合が少し多い。 さらに、そもそも女性の候補者が少ないという問題がある。

どの国でもフェミニズムを第一の政策とする政党や、女性が主体となるような政党は登場していない。それゆえに男性が主体となる政党において、どれほど女性を前面にプッシュするかという男性主導となっている。

女性をプッシュするのは左派的な野党かと思いきや、それが得票率を上げないならば女性がプッシュされない。ましてや安定的な与党にとってはわざわざ女性を登用するようなモチベーションは湧かない。

民主主義には多数決型と合意型があるが、スウェーデンのような合意型の国の方が女性議員の比率が高い。

1994年に日本で中選挙区制から小選挙区制に切り替えられたが、フェミニスト達の心配とは裏腹に女性議員の数は増えた。

女性議員の数を増やすには政治的な枠組みで解決する必要があり、それはジェンダークォーター制を導入することである。一般的にはクオータ制などと呼ばれている。

世界で最も女性議員の比率が高いのはルワンダで、国際機関からクォーター制を導入するように要請された。先進国では台湾での女性議員比率が最も高く、こちらもまたクオータ制を導入している。ヨーロッパではスウェーデンやイギリスなども。

あとがきの筆者の思いが熱い。これまでの政治学は決して完璧なものではなく、ジェンダーのようなマイノリティの視点を入れることで全く違った側面が見えるようになる、というもの。