レビュー
ブクログで見かけて気になったので購入。
人口減少と言えば、もちろん大きな社会問題。しかし本書は、それがもたらす問題について幅広く教えてくれる。例えば、輸血不足。例えば、火葬場不足。考えてみればそうなのだけど、自分の認識不足を改めて知る。
また、日本を構成する様々な部門。経済、介護、医療、スポーツ、教育など…。人口減少という大問題の前では、あらゆる分野で大きな弊害が起こることが、本書を読めば分かる。人口の問題というのは、それだけ深刻な問題であることが分かる。
また、人口問題というのは、大別して3つ。「少子化」「高齢化」「現役世代の減少」。なるほど、たしかに分けて考えたほうが良さそうだ。そのように、大枠での再認識をもたらしてくれる。
少し悲観論すぎるきらいもあるけど、概して良書だと思う。筆者は「人口減少対策総合研究所理事長」という肩書をもつ。まさしく人口問題のプロフェッショナル。
一番印象に残ったのは、地方の優位性。
地方では高齢者の増加が頭打ちしている。なので今ある行政サービスで事足りるかもしれない。一方で、東京にはこれから高齢者が流入してくる。そして東京は決して高齢者に優しい街ではない。という切り口は面白かった。
また、後半の提言は面白く読んだ。こちらは逆に楽観論に過ぎるように思いつつ、人口問題への切り口というだけでなく、思考の方向として新鮮でユニークに映った。
引用・抜粋
以下、読みながら書いた引用と抜粋。
第1部 人口減少カレンダー
2017年の時点で、高齢者のうちの3分の1が80歳以上。今後の高齢化は、高齢化がもっと高齢になっていく、という現象。
私立大学や地方大学は人口減少で苦境に立たされる。そもそも、1992年から2016年にかけて四年生大学の男女進学率は2倍の50%強となった。今後は進学率の上昇が見込めず、18歳以下の人口も減少傾向にある。
人口減少はインフラ維持を脅かす。さらに専門技能を必要とする領域で、技術継承が進まないという問題もある。AIは労働力不足を補うかもしれないが、そもそもAIというかIT人材が足りない可能性がある。
合計特殊出生率を上げると必ずしも人口が増加するとは言えないが、社会を作り変える時間稼ぎにはなる。
人口減少により社会保障費が逼迫しており、介護を取り巻く状況も厳しくなっている。まず、介護難民が発生する。介護人材は不足しており、人材不足で入居施設が閉鎖することも。また、社会的入院が非推奨となっている。いわゆる介護離職は毎年十万人発生している。子どもの数が少なくなり、親世代からの負担が一気にのしかかる。また、育児と異なり、介護は「終わり」が見えない。これにより、介護休暇を取りづらい、という側面はある。
人口減少とは裏腹に、世帯数は増える試算が出ている。一つに、子ども世代と同居しない高齢者の存在がある。もう一つは、未婚率の上昇。あるいは離婚件数の上昇とも言える。
企業にとっては高齢社員の増加により、人件費増と退職金の負担増が予想される。
老老介護の問題もある。また、40,50代が板挟みとなり、介護と育児の両方を行うことになる「ダブルケア」の問題もある。
東京一極集中について。これまでは、若者が東京に流入していた。が、その流れは弱まりつつある。これからは、都心の子ども世代を頼って高齢者が流入してくる。しかし、都心は介護に適してない、という問題がある。また、東京と地方は分業してきた側面がある。地方が単純労働や食料の供給を担ってきた。というバランスが崩れかねない。
少子高齢化では、輸血の需給バランスが崩れる。また、医療に携わる人間の数が減る。なので、病院に行けば助かる、という常識が揺らぐ。あるいは病院にたどり着かないかもしれない。
地域の人口が減少すると、施設の存続が危ぶまれる。「国土の均衡ある発展」なんて言っている場合ではない。
空き家問題も深刻。特にマンションの場合、空き家率が上がると管理組合の維持が難しい。また、マンションは戸建以上に取り壊しのコストがかかる。こうして、空き家はスラム化のリスクをはらむ。そもそも、景気浮揚策として住宅を供給過多しすぎた、という背景がある。
未婚率の上昇が止まらない。が、同級生婚は増えている。
火葬場の不足も問題。東京は高齢者人口が増大することが見込まれるが、それに追いつかない。火葬場は用地の準備と地域住民の理解のハードルが高い。また、無縁遺骨も問題となる。
高齢化率は地方が高い、が、高齢者の増加数で見れば大都市圏のほうが多い。つまり、大都市圏は高齢化への対応に追われる可能性があり、住民は増加する対応コストを支払う。一方で、地方での高齢者数は頭打ちなので、今ある行政サービスで事足りるかもしれない。ここに、地方移住の可能性がある。
第2部
安倍政権は人口1億人を目標に掲げた。そもそも、人口が減っていく前提で考えなくてはいけない。対応分野は、少子化・高齢化・労働人口の減少の3つ。対策には何十年もかかることを覚悟しておく。
外国人労働者、AI、女性、高齢者が、新しい働き手として期待されている。が、困難もはらむ。むしろ、これまでの成長モデルを維持する、という発想から脱却する。戦略的に縮む、という構想。
そのために筆者はまず5つの「処方箋」を提示する。
高齢者の再定義: 高齢者の年齢水準を見直して「若い高齢者」には働いてもらおうという提案
24時間社会からの脱却:
非居住エリアを明確化: 移動を促し、残る人には受益者負担の考えに基づいた負担増
都道府県を飛び地合併: 地方創生は地市町村を残すことではない
国際分業の徹底: 得意分野にフォーカス
ここからは豊かさを維持する処方箋。
「匠の技」を活用
国費学生制度で人材育成
ここからは東京一極集中への処方箋。
- 日本版CCRC
星評価
★★★★☆