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【この宇宙の真相に出会う】三体Ⅱ 暗黒森林 下 - 劉慈欣

レビュー

三体Ⅱ 暗黒森林の下巻。

上巻に続き、面壁計画が進行している。しかし破壁者は執拗で、人類は依然として劣勢。羅輯とハインズの2人は冷凍睡眠に入ることとなる。

200年後の時を経て、人類の技術力は向上。地球には総楽観ムードが広がっていた。それを目覚めた冬眠者の視点で知る、というのはSF的で素晴らしい。

しかし三体の偵察艦である「水滴」が登場。地球艦隊への虐殺行為をもってして、改めて力の差が露呈する。総楽観ムードは一転し、世界は地獄と化す。

このあたりからの没入感は凄まじく、ラストまで一気に駆け抜けていく。

深宇宙に旅立った「星艦地球」のパートは傑作すぎる。まさしく「冷たい方程式」と「幼年期の終わり」。

新たな文明の誕生は、新たな倫理の形成を意味する。(p262)

そして満を持して、上巻からの伏線が回収される。背筋が冷えるような感覚とともに、読者は「暗黒森林」の意味を知ることとなる。この宇宙の真相が解明されていくさまは、さながら壮大なミステリ小説のよう。

羅輯はやはり最高の面壁者だった。上巻での「呪文」が伏線となり、彼は猜疑連鎖と技術爆発を理解する。つまり、宇宙社会学を完成させる。

そして太陽系を人質に、三体世界との交渉に臨む…。

ラストシーンも秀逸。三体1部で登場したあの人物が登場。なんとも収まりの良いエンディング。

総括として大変夢中になって読めた。溢れるような情緒を、SF的な大風呂敷に載せてみせた。SF小説として恐ろしく傑作。

それにしてもまだ三部作の2部。3部目がいったいどのように展開するのか、全く想像ができないし、あまりにも楽しみ。

読みながらのメモ

冷凍睡眠から覚めたハインズ。彼は妻の良子と共に、脳が判断を下すプロセスに介入する手段を見つけた。それは精神印章(メンタルシール)と命名され、敗北主義への強力な対応策となった。宇宙軍の軍人たちが志願してメンタルシールを授かる様には胸が熱くなる。また一歩、人類が前進した想い。

レイ・ディアスの破壁者が登場し、ディアスの計画は見事に看破されてしまう。まず水星を太陽に落とす。その後、連鎖反応で他の惑星も次々に太陽に落としていく。自らの太陽系を担保として三体文明を脅す。なんという壮大な計画…。しかし、水星を落とすために必要な量の水素爆弾はとても生産できない…というオチ。

時は流れて200年。羅輯が冷凍睡眠から目覚める。ああ、一人称視点で少しずつ未来世界に触れる読書体験!これぞSFの王道。地下世界、人工太陽、樹上都市、空飛ぶ自転車、世界言語…王道設定の目白押し。

同じく冷凍睡眠から目覚めたハインズとその妻の良子。面壁者計画の最後の国際会議が開催される。それは、面壁者計画を終了させる、というもの。その場で良子は、自身がハインズの破壁者であることを告げる。なんと…。これまた熱い展開。

北海もまた冷凍睡眠から目覚める。宇宙軍の中でもアジア艦隊が脚光を浴びるのはいいね。アジアSFの良さを感じる。宇宙船の名前が自然選択(ナチュラルセレクション)なの、かっこいい…。

他の艦隊も、量子、青銅時代など名前がクールすぎる。初めて確認された三体初の物体は水滴と名付けられる。その見た目の描写の文章もまた美しい。

しかし水滴はその実、破壊者だった。攻撃方法は「体当たり」というシンプルなもの。しかしその速度と機動力、そしてステルス性をもって、ものの数十分で人類の艦隊は壊滅する。このシーンの絶望感といったらない。

宇宙に放り出された人々は、新人類ではなく、非人類となる。なるほど、、。冷たい方程式であり、幼年期の終わりである。

地球文明の総楽観は、水滴の殺戮によって崩壊する。そして深宇宙に旅立った艦隊は、暗黒の倫理を身につける。なんとも痺れる怒涛の展開。

三体世界との最終交渉の場が、葉文潔の墓前というのもまた…。

星評価

★★★★★

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