レビュー
老人と宇宙(そら)。タイトルは知っていてずっと気になっていたけど、ついに手に取ってみた。
やはり必読書として挙げられるだけあり、面白い。
内容をざっくりと紹介すると、75歳を超えた地球の老人たちが、宇宙軍に入隊するという。非常に分かりやすいストーリー。
だけど、感情をしっかりと書いてくれる。まさか自分が老人に感情移入する日が来るとは…。そして宇宙やエイリアン、そして戦闘についてもしっかりと描かれる。宇宙戦闘系の王道SFとして非常に読み応えがあった。
宇宙戦争とは言え、老人たちはどこか飄々としており、サラサラと読めてしまう。シリアスとユーモアのバランスが良い。
老人たちが宇宙軍から期待されていることについて、先輩から説明がある。それは少し泣けた。
また、「特殊部隊」という宇宙で生まれた人々との対比は面白い。彼らにとって、老人たちは地球での「前世」がある。そう、老人たちにとっては、宇宙軍での生活は第二の人生。地球との隔絶も手伝って、まるで死後の世界のような、夢っぽさを感じさせた。
ラストシーンは男性作家っぽいというか。ふーんと言った感じw
それから、読みにくいところが一切ない。スラスラと読めてしまう。翻訳が良いのだと思う。
SF初心者に強くオススメできる1冊。
ネタバレありの感想
以下、読みながら書いた、ネタバレありの感想。
冗長な前置きは無く、サラッと本題に入るのは好感が持てる。いきなり75歳の主人公が宇宙軍に入隊するシーンが登場。志願問答のチェックリストで世界設定を明かしていくという、巧みな仕組み。
インドが核戦争?に負けたり、ゼネラル・エレクトリックが大量解雇をしたり、これ大丈夫なのか…?w というIFが出てくる。
コロニーに向かう「宇宙エレベーター」では、主人公を含めた老人3人が出会い、打ち解ける。3人の目的は肉体再生、新しい世界を見たい、知的好奇心など、目的は別々だけど、戦いたいわけではないのは確か。どこかのほほんとしていて可笑しい。さらに老人仲間は増え、オイボレ団と自称して先に起こることをワイワイと予想し合うのも微笑ましい。
ゲイキャラクターがさらっと出てきて好感を持つ。
ちょうど100ページあたりで、老人の徴兵の真相が明かされる。なるほど、精神をスキャンして若い肉体に転送する。
主人公は無事、人工肉体への転送を終える。脳内インターフェイスとの対話は笑えた(p124)。SFでバカ笑いしたのは久しぶりかもしれない。
ユーモアとシリアスの塩梅がちょうどいい。
老人たちは植民者たち、つまり新しい惑星に入植した人類を愛するよう言われる。惑星ごとに文化や言語に差異が生まれてきている。これが多様性となり、種の繁栄に繋がる。老人たちが期待されているのは、これを慈しむ心。長く生きたからこそ、その価値が分かるだろうと期待されている。というのは胸が熱くなる。
死んだはずの妻が蘇るというのは、思いがけない展開。正しくは、妻の肉体。妻のDNAを初めとする、様々なDNAをブレンドして作られた特殊部隊の隊員。魂は別物。人間の姿をしながら、そのように創られて宇宙で生きてきた特殊部隊の面々はちょっと魅力的。ややイノセントに映って印象に残った。
惑星コーラルを取り戻すためには、ララエィ族と戦わなければならない。そのために、ララエィ族にテクノロジーを与えたコンスー族に交渉に行く。これもまた印象的なシーン。コンスー族5人と特殊部隊5人が殺し合い、勝った数だけ質問できるという。
惑星コーラルへの襲撃。星間ジャンプの直後、想定どおりに宇宙船は爆撃される。乗組員たちは死体を装い脱出。炎を吹く宇宙船を見ながら、コーラルの地表めがけて落下していく。宇宙から惑星へのバンジージャンプを体験できるなんて王道SF。
星評価
★★★★★