レビュー
三島由紀夫を読むのはこれで5冊目になる。
1冊目は言わずとしれた「仮面の告白」。正直、詳細な内容は忘れてしまった。
2冊目は「行動学入門」。エッセイのようで面白かった。
3冊目は「美しい星」。少しSF的で、全体に漂う奇異な雰囲気は自分好みだった。
4冊目は「命売ります」。ダークコメディといった内容で、非常に面白く読んだ。
さて、5冊目となる「潮騒」。三島由紀夫の作品の中では、トップ3くらいのメジャー作品なのではないかと思う。
いざ読んでみると、なんとも「普通」だ。
物語の舞台は「歌島」という小さな島。そこで暮らす18歳の新治という好青年が主人公と言えば主人公かな。 ある日、歌島に初江という若く美しい女性がやってきて、二人は惹かれ合っていく…という「普通」のストーリー。
三島由紀夫と言えば、「コンプレックス」「ダーク」「奇異」「過激」といったイメージだった。
しかし潮騒は爽やかな青春小説と言ったところ。まるで原田マハが書きそうな、現代小説っぽさを感じてしまった。
文章は読みにくいところがほとんどなく、スラスラ読めてしまう。
島で暮らす人々はとても魅力的。シンプルな生き方とシンプルな感情を、眩しく思いながら読んだ。潮騒の聞こえる小さな世界が切り取られ、この1冊に収められている。
歌島にはどこか懐かしいものを感じる。まるで日本の心象風景。そこに還っていくような不思議な読書体験。
なるほど、三島由紀夫はこんな小説も書くのかと。今さら新鮮な発見をした想い。次は「金閣寺」あたりを読んでみたい。
以下、引用。
孤独が、彼から、人間の悪意を信じたりする気持をすっかり失くしてしまった。(p48)
昼も暗い家の中、分娩の暗い苦しみ、海底の仄暗さ、これらは一連の、お互いに親しい世界である。(p71)
星評価
★★★★☆