日々是書評

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【自分を好きになる、他人に寛容になる】私とは何かーー「個人」から「分人」へ - 平野啓一郎

レビュー

平野啓一郎さんを読むのはこれで2度目。1冊目は「マチネの終わりに」だった。なので、エッセイを読むのは初めてとなる。

この本で提唱されるのは「分人」という考え。人を「個人」という単位ではなく、「分人」という単位で考える。

分人とは、所属している組織ごとに、あるいは対している人ごとに生まれる自分の一面。本当の自分という核は無く、それぞれの分人が全て本当の自分である。そして分人たちの構成比率が「個性」となる。

という考え。なるほど、面白い。画期的に新しいというわけではないけど、こういう考え方もあるよなと。特に、若い方にはおすすめできるかもしれない。

自分を好きになる方法として、好きな分人を探す、というのは面白かった。つまり、「この人といる時の自分は好きだ」みたいな。それはグッとハードルが下がる感じがする。

また、筆者が生きてきた時代性を随所に感じられるのも良い。そして筆者による純文学の紹介もまた、純文学への良い興味喚起になりそう。

三島由紀夫が恋を、谷崎潤一郎が愛を描いたというのはなるほどという感じ。

総評すると、若い頃の自分におすすめしたい1冊。ふっと悩みが軽くなるような、人生が少し拓けるような読書体験。

以下、抜粋・要約。

人格は反復的なコミュニケーションを通じて形成される一種のパターン。反復的とは、会社での自分はだいたいいつも同じで、継続性がある。みたいな話。

八方美人とは分人化を怠っている人。

分人主義は、変化を肯定的に捉える。自分が好ましいと思えるような分人を足場にして、生きる道を考える。

専制政治にとって分人化は敵。個人であるほうが都合がいい。顔認証と相性がいい。 個人という整数単位に統合しようという力が働く。

一人の中の分人同士は、相互に影響し合う。昨今のイデオロギー的な分断への対処として、分人同士の交流がある。

星評価

★★★★☆

今回紹介した本