レビュー
「息子が人を殺しました」。
あまりにも強烈なタイトルだ。印象に残り、そして本書の内容を的確に表している。
加害者家族と言えば、報道陣が押しかけたり、周囲から責め立てられたり、社会的に孤立してしまうような印象を持っていた。
読み始めるとしかし、加害者家族の現実は想像以上に過酷であることが分かっていく。
- カルト宗教の人間が押しかけることもあり、弱みにつけ込んで洗脳しようとしてくること
- 加害者家族の事件後の出費は平均で600万円もかかっている現実
- それにより、子どもの進学や将来にネガティブな影響が出てしまうこと
- 加害者家族は自分で弁護士を依頼する必要があること
- もし依頼しなければ、警察からのやりたい放題な事情聴取や、恐喝のような自白強要が行われてしまうこと
- 「犯人隠避」となるのを恐れて周囲が手を差し伸べづらいこと
- 職場や地域での立場が危うくなる一方で、賠償金を支払うために経済的基盤を保ち続ける必要があること
- 責任範囲が曖昧なので、いつまでも謝罪と自粛を求められてしまうこと
加害者家族についての自分の知識は氷山の一角でしかなかった。こんなにも酷な状況に置かれる人たちが現実にはこの世にいる。全く他人事とは思えず、悔しさと悲しさを堪えながら本書を読み進めた。
もちろんケースバイケース。加害者家族の置かれる状況は一様ではない。
だけど、ここで書かれていることが現実であることには変わりはない。なぜなら筆者はNPO法人WorldOpenHeartの代表として、加害者家族に寄り添い続けてきたからだ。
本書の中盤では、加害者家族に関する具体的な描写が続く。
とりわけ「酷い」ケースが立て続けに紹介されるのだけど、そのほとんどは機能不全家族と言われているような家族だ。
第五章ではこんな家族が紹介される。
有名人の父親と、その劣等感に苦しむ息子。息子の外部へのSOSは世間体を気にする母親によって妨害される。そして息子は自殺する。一方で娘は父親のコネを最大限に活かして、アナウンサーへの道を目指す。そんな娘に嫉妬した息子は「お前の裸の写真をばら撒くぞ」と脅していたという。
それから「青木家」の実例は、たった数ページなのに1本の家族ドキュメンタリーを読んだようだ。あまりにもエグく、読み進めるのにエネルギーを要した。
だけど最後には救いがあって良かった。思わず目頭が熱くなっている自分がいた。すぐそこまで迫っていた犯罪や自殺の可能性は取り払われた。悲しい事件が起こらなくて良かった。著者の阿部恭子さんがいて、この家族に介入してくれて良かった。
それから第六章。次はこんな家族が紹介される。
妻に暴力を振るう夫がいた。長男は母親を庇っていた。おそらく何かがキッカケとなり、長男は暴力を振るう父親を刺殺した。 長男は判決、二十年の懲役となった。 次男はそれが納得がいかなかった。だけど長男は事件に関して口を閉ざし、母親と弟を守るために全てを捨てる覚悟をしていた。
こんなにも強く優しい人が、加害者として責め立てられ、堀の向こうにいるなんて。世の中には本当にこんな人がいるのかと、泣けて仕方なかった。
第九章では「なぜ加害者家族を支援するのか」について書かれる。
加害者家族への支援は決して、被害者にとっての損失ではない。加害者の更生に繋がるかもしれず、そして被害者への賠償責任を果たさせることになる。
総括としては、あまりにも辛い読書体験だった。加害者家族が置かれた立場はあまりにも過酷だ。
機能不全家族の実例は、人によっては閲覧注意だ。トラウマや心の傷を刺激されるかも知れない。
それでも、この本を読めて良かった。現実である以上、どんなに辛くてもそれを知りたい。本を通じて現実を知り、自分の世界を拡張していく。その結果、少しでも人と世界に優しくなれるかもしれない。それが読書家としての矜持であると思う。
なんとも意味のある読書体験だった。少額ではあるけど、WorldOpenHeartのホームページより寄付を行った。今後も自分にできることを考え続けたい。
星評価
★★★★★