日々是書評

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【自分を愛することは、最大の社会貢献】沖縄から貧困がなくならない本当の理由 - 樋口耕太郎

レビュー

多くの日本人がそうであるように、自分もまた沖縄に対して好印象を持っていた。それは「なんとなく」の好印象で、具体的な知見があったわけではない。あくまでイメージとしての好印象だった。

本書を読むと、沖縄の実像が浮かび上がってくる。「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」が、筆者の経験と分析によって書かれている。

人によっては、目を背けたくなるような話かもしれない。事実、本書で書かれる範囲は沖縄に限定されない。日本全体の問題、日本人の心の問題までに話は波及する。本土の人間も、決して無関係ではなく、地続きの問題を抱えていることが分かる。

それでも、沖縄にどっぷりと浸かった筆者の分析は面白く読んだ。タブーを恐れず、メスを切り込んでいくような文章。終盤ではやや主観的な部分が多いものの、人の在り方まで論じたのは読み物として面白かった。

なるほど、キーは経済合理性と自尊心だったのか。

「自分を愛することは、最大の社会貢献」というのは、肝に銘じておきたい。

引用・抜粋

以下、読みながら書いた引用・抜粋のメモ。

はじめに

筆者は沖縄で大学教師をしている。学生の無感覚を契機にして、沖縄の問題について深堀していく。

16年もの時間、何千人ものウチナンチュと触れ合ってきた筆者のデータ量は膨大。

沖縄の問題とは、戦争や本土の政治に由来すると思われてきた。が、筆者は沖縄の中にこそ、問題が存在すると提起する。

第一章 「オリオン買収」は何を意味するのか

基地関連収入は5%だと言われている。実際には、基地関連イベントの収益などは「沖縄振興費」側に計上されている。

オリオンビールは大きな優遇措置を受けている。本土復帰時にサントリーやキリンに潰されないよう、保護する目的だった。当初5年で終わるはずの優遇措置は、48年も続き、オリオンビールは経営努力を怠り、2019年に野村ホールディングスらに身売りすることとなった。

泡盛業界もまた、優遇措置を受けている。泡盛業界の生産性は、本土の焼酎業界のそれの半分しかない。

守られた経済では、事業性よりも人間関係が、創造性よりも序列が、個性よりも協調性が「経済合理的」になる。(p43)

現在の沖縄経済・観光業を支える主要なプロジェクトやイベントは、奇妙なほど1995年以降から2000年をまたぐ時期に集中している。経済振興に関わる重大な事項ほど、基地問題にかかる政治決定と深く関わっている。

しかし、経済的な援助を受けながらも沖縄の貧困率は全国一位。67ページに具体的な順位あり。

世の中では対症療法がもてはやされる。これは短期的には成果が出るものの、根本原因の解決にはならない。貧困に限って言えば、むしろ長期的には悪化させる。根本原因をつきとめること。それが問題解決の第一歩。そして問題を知るには、正しく問うこと。問いが現実世界をつくる。

これまでは、沖縄が被害者だという前提で問題を解決しようとしてきた。

第二章 人間関係の経済

沖縄社会はクラクションを鳴らせない社会。文字通りの意味で。人間関係の現状維持が是とされ、意見を言ったり断ったり人と異なることを恐れる傾向がある。

沖縄の貧困は、労働者・消費者・経営者の三者の利害が合致することで成り立っている。

まず、昇給・昇進を望まない労働者がいる。

沖縄では弱いものいじめではなく、できるものいじめ。沖縄社会でリーダーシップを発揮すること(物事を変えること)の難しさを、人々は身にしみて分かっている。

次に、定番商品を買い続ける消費者がいる。お金持ちでも高級車を買い控える(ただし内装は最高級)。

女性はブランド品を持たず、化粧の薄い傾向。

商品の品質では選ばれない。購買は人間関係に起因する。(知り合いのタクシー会社を使う、など)

第三章 沖縄は貧困に支えられている

新聞、銀行、小売など、本土の企業は沖縄で苦戦を強いられる。地元民は当然のように地元企業のサービスを利用する。

また、企業は賃上げをしない。業界の和を乱すことになる。法的な最低賃金の引き上げとなれば、和を乱さないので歓迎する経営者はいる。

沖縄が貧困なのは、貧困であることに(経済)合理性があるから。貧困への対症療法が効かないのは、そのため。

第四章 自分を愛せないウチナーンチュ

筆者は沖縄の人々の自尊心の低さを指摘する。貧困は経済問題ではなく、自尊心の低さが招く心の問題。

なんくるないさーは元々、人事を尽くして天命を待つ、といった意味合い。いつからか、何もしなくてもオッケーという意味に。

沖縄の男性は働かない、と、長男問題について触れられる。

自分を愛することは、最大の社会貢献になり得る。

第五章 キャンドルサービス

誰かの自尊心を回復するには、その人の関心に関心を持つ必要がある。自分の関心を押し付けてはいけない。

沖縄と日本の関係、日本と海外の関係に似ている。沖縄の状況に驚く我々だが、海外から見た日本もまた特殊な状況にある。自尊心の低さ、など。

今回紹介した本