日々是書評

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【大切な人の死を織り込んでいく小説】美しい距離 - 山崎ナオコーラ

レビュー

山崎ナオコーラさんの著作を読むのはこれが初めて。もちろん、「人のセックスを笑うな」はあまりにも有名。作家として気にはなっていた。

ブクログでレビューを見たのを良い機会と思い、手にとって見た。

まず、言わなければいけないのは文体が独特だということ。本作だけが特殊なのか、他の著作もそうなのか分からないけれども、難しさを感じた。たびたび主語が省略されるので、油断していると誰の発言・行為なのか分からなくなる。

著者紹介では「分かりやすい文章を心がける」と書かれていたけど、ちょっと行き過ぎている気がする。

それはさておき、内容については可もなく不可もなく、かな。

若くして癌に罹ってしまった妻と、その看病をする夫の物語。夫の視点で話が進んでいく。

決して安易な感動モノにならず、夫の思いや考えがつらつらと描かれる。

例えば、妻を見舞いにくる知り合いが登場する。彼らは遠慮もなく「痩せたね」と言ってくる。それに対して夫は「太ると言うことは明らかに失礼なことなのに、人は平気で痩せたと言う」などと憤る。

他には、「未来のことを考えることが、必ずしも明るい気分になれるわけではない」や「忌引について、死んでから休んだって意味ない 死ぬ前に休みがほしい」など。

病気に起因する数々の不条理に対して、夫の独白という形式を通じて、山崎ナオコーラさんの私見が述べられる。それは少し新鮮な発見をもたらして、病気の現場への認識を少しだけ改めてしまった。

さらに、介護保険法など、現実の制度や実態が物語の中に自然な形で組み込まれている。そういう意味では少しノンフィクションらしさも感じる一作だった。

ネタバレになってしまうけど、妻はあっさり死んでしまう。それに対して、夫は淡白。そう、この物語はどこか淡白な空気が漂っている。

だけど、冷静になって考えてみると、事故死などの急死を除けば、人の死に際して、取り乱す人間の方が少ないような気もしてくる。

この物語では、夫は着々と妻の死が現実になっていくのを見ていた。来たるべき未来として死が織り込まれたとき、人は激情に飲まれないものなのかもしれない。

そのように理性的に死と向き合っていくことが「美しい距離」を取るということなのかな、と自分を納得させた。

また、夫は最終的に「死ぬなら癌がいい」と独白する。最後に小綺麗にまとまった感じ。

さすが芥川賞の候補作だけあって、単純ではない。読者に考えさせる感じ。だけど、やっぱり★3つかなぁ。

星評価

★★★☆☆

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