レビュー
山本周五郎と言えば、「山本周五郎賞の人」というイメージしか無かった。が、友人から「さぶ」を薦められて、良い機会だと思って読んでみた。
なんとこの物語の主人公は「さぶ」ではない。さぶの幼馴染の「栄二」だ。
しかも、江戸の暮らし的なシーンはあっさり終わってしまう。さぶと栄二は、職人見習いのようなカタチで働いていたが、栄二が無実の罪で追放されてしまう。という急展開。
栄二は人足寄場へ送られ、「様々」な人たちと共同生活を送ることになる。人足寄場での描写は胸に来るものがあった。外の世界では居場所がない人たちが、ここでは怯えずに生きられると言う。
それはノンフィクションの「刑務所しか居場所がない人たち」を思い出した。
いなくなった栄二を探すために駆けずり回ったさぶ、そして、栄二を想うおすえ。二人の優しさにも泣けるものがあった。
復讐に燃えていた栄二が、作業中の事故により死に瀕する。その時、無意識に「助けてくれ、さぶ…」と呟いたのが泣けて仕方なかった。(235ページ 個人的には、本作の中でのクライマックス。さぶという純な存在が、物語を支える下地のようになっている。彼は聖なる人のようであり、そこは三浦綾子的な、宗教小説の様相を見せていたと思う。
物語の終盤に真相が明らかになるのは、ちょっと予定調和的というか。まぁ、うん、と言った感じ。悪くはないけど。
総評として悪くなかった。シンプルな時代の人々の直球な想いや、栄二の人間的な成長を丹念に描いたのはとても良かった。
引用
栄二は、〇〇と思いつつも「〇〇」と自分の口が言うのを聞いた。
という文章は「思いとは裏腹に言葉が出てしまう描写」として良いなと思った。
洒落の絵解きをさせるな(270ページ
ジョークの解説をさせるな、的な言い回しか。この時代からあったのかな。面白い。
星評価
★★★★☆