総評
働き方の関連書籍として、本書を手に取った。
ピーター・ドラッカーはもちろん知っていたけど、書籍を読むはこれが初めて。経営学という印象が強かったけれど、本書の内容は、現代の労働者に広く適用できる内容だと感じた。
構成は5つのパートから為る。
- いま世界に何が起こっているか(「ポスト資本主義社会」である現在について解説
- 働くことの意味が変わった(我々知的労働者の働き方について
- 自らをマネジメントする(成果をあげるためのセルフマネジメントについて
- 意思決定のための基礎知識(成果をあげるための意思決定について
- 自己実現への挑戦(これまでの総括的な内容
分量は200ページ強。少なくないけど、内容が少し難しい。というより、抽象的。それなり以上の就労経験がないと、理解できずに挫折するかもしれない。挿入されるエピソードも昔のアメリカのものが多く、ピンとこない読者は少なくないかも。
それでも、人生で何度でも読み返したい書籍となった。理解できた部分は自分が働く上で活用してみたい。理解できなかった部分は再読が楽しみ。
引用・抜粋
Part1 いま世界に何が起こっているか
1章 ポスト資本主義社会への転換
十六世紀頃までは、技能を学ぶためには師弟関係になる必要があった。「百科全書」の登場が変化をもたらした。十七世紀頃からは資本家が台頭し、民間事業が産業の中心になっていく。
その昔、仕事というのは奴隷のすることだった。
マルクス主義が誤りであったことは、生産性革命によって証明された。産業革命で道具は改良されたけど、当時の人々の生産性までが向上したわけではなかった。知識を仕事に適用して初めて、生産性が大きく向上した。
知識を知識に適用するのがポスト資本主義としての最終段階。
2章 新しい社会の主役は誰か
家庭や地域と異なり、企業という組織とは破壊的であるべき。知識を知識に適用して、イノベーションを起こす必要がある。
また、技術的なイノベーションだけではなく、社会的なイノベーションの果たす役割のほうが大きかったりする。
組織が行うべきは3つ。
- 絶えざる改善
- 知識の改善(成功の応用
- イノベーションの体系化
また旧態化した知識を廃棄することも必要。
組織の意思決定について。高度に分業化している必要がある。また、組織はコミュニティを超越する。組織を規定するのは機能であり、その価値観でさえ機能の影響を受ける。
組織が果たすべき責任について。組織の権利行使は強力だが、政治ではなく組織自体によってなされるべき。(学校による入試不合格、病院による医師不採用、など)
組織が業績を上げられることは最低条件。しかしその上で、従業員、顧客、関係者に責任を果たす必要がある。
組織は目的に設計され、規定される。その目的に集中することで成果を上げることができる。
使命は1つであるべきで、分散・多様化するべきではない。
知的労働者は組織に従属しない。
ブルーカラー労働者と異なり、知的労働者は監督されえない。それ以上に専門的な人間がいるならば価値がない。
知的労働者の忠誠心は報酬だけでは得られない。その知識を発揮できる最高の機会が必要。
Part2 働くことの意味が変わった
1章 生産性をいかにして高めるか
1910年代、貧富の差はせいぜい3倍ほどだった。現代では20〜40倍になっている。先進国化するために要する年数は半減した。
知的労働者の生産性は20世紀初頭に比べると低下している。
肉体労働に置いては、資本と知識は生産要素。知的労働において、それらは生産手段でしかなく、その生産性は各人の使い方に依存する。生産性の向上はより賢く働くことでしか達成できない。
肉体労働は「いかに行うか」、知的労働は「何が目的か」を問うことが大切。後者では、仕事の定義を見直して、やる必要のないことをやめることが、生産性向上に寄与する。
知的労働は3種類に分けられる。
質重視(研究者など)、量重視(ベッドメイキング)、質と量の両方を重視(その他大勢の知的労働者)
知的労働の生産性を高めるためには、その仕事が上記のどれに該当するか見極める。そうして初めて、何に取り組むべきかが分かる。質を高める方法が分かってないが、「何が役に立つか」を考えるのが有用。
作業を分解し、分析し、組み立て直して、生産性向上を図る。これは3〜5年おきに見直す。
生産性向上には継続的な学習が必須。また、教える時にこそよく学ぶ。
2章 なぜ成果があがらないのか
知力や想像力や知識は、成果を上げることに寄与しない。
知的労働者は組織の目的に貢献して初めて成果を上げることができる。自らの仕事を貢献に結びつけるように、自分をマネジメントする必要がある。
知的労働者が何を考えているかは外部から推し知ることはできない。考えることこそが、知的労働者固有の仕事。
知的労働者は、それ自体独立して役立つものを生み出すことはできず(排水溝、靴など)、知識、アイデア、情報を生み出す。自らの成果を他の人間に提供する。
成果を阻害する4つの要因について。
- 時間をとられること
- 日常業務に謀殺されること
- 組織で働いていること(=自分の成果を利用してくれる存在が必要
- 組織の中にいること(=外界のことが分かりづらい
コストは組織の内部で発生する、成果は外からやってくる
組織は存在することではなく、外の世界に貢献することが目的。
成果を上げさせるためには、知的労働者をそのようにマネジメントすることが大切。成果を上げるのは習慣的な能力、そしてそれは特別な才能を要せず、努力によって習得することができる。
3章 貢献を重視する
「どのような貢献ができるか」を自問することは、自らの仕事の可能性を追求することでもある。
あらゆる組織が3つの領域の成果を、その生存の必須条件としている。直接の価値、価値への取り組み、人材の育成。
今日の水準を維持しているだけの組織は適応の能力を失ったというべき。
貢献に焦点を合わせるということは、人材を育成するということ。人は、課された要求水準に適応する。貢献に照準を当てる人は、ともに働くすべての人間の視点と水準を高める。
前述の通り、知的労働者が生産するものは断片的。それは利用するものへの説明責任がある。理解されるように努力する責任がある。
顔を上に向けることによって意識が変わる。全体の中で貢献する方法を探り始める。
貢献に焦点をあてることで、よい、生産的な人間関係をもつことができる。また、意味のあるコミュニケーション、しかも成果に結びつくコミュニケーションが確約されている。そしてチームワークもまた可能となる。知識組織が成果を上げるとき、状況の論理や仕事の要求に従って自発的に協力して働く。
知的労働者は、自らに課される要求に応じて成長する。
Part3 自らをマネジメントする
1章 私の人生を変えた七つの経験
- ヴェルディが80歳になっても挑戦し続ける様
- フェイディアスが細部まで完璧な出来を追求する様
- 1つのことに集中して勉強すること
- 編集者時代の1on1で継続的な改善をすること
- 仕事が変わる毎に「新しい仕事で成果を上げるには何をしなければならないか」を自問する
- 書き留めることによって、継続学習の要を手に入れる(つまり「自らの強みが何か」を知ること、「それらの強みをいかにしてさらに強化するか」を知ること、そして「自分には何ができないか」を知ること)
- 父アドルフとシュンペーターの会話より、人は何によって知られた以下を自問しなければならない、そしてその問いに対する答えは歳を取るにつれて(=成長するにつれて)変わっていかなければならない、そして本当に知られるべきは人を素晴らしい人に変えること。
2章 自らの強みを知る
「農民の息子が農民であった」時代と異なり、現代を生きる知的労働者は自分の強みを知るべき。組織よりも長生きするキャリアを送っていくのだから、強みを理解して臨むべき。
強みはフィードバック分析に基づき行う。何をするか、何を期待するかを書き留める。しばらくおいて、結果を照合する。強みが分かる、あるいはそれほどの強みでないことや、強みではなかったことが分かる。
フィードバック分析をした後は…
- 明らかになった強みに集中し、成果を生み出すものに集中する
- 強みを伸ばす
- 無知の元凶である知的な傲慢を正す
- 成果を邪魔する悪癖を改める
- 人への対し方を良くする
- 成果の上がらないことは行わない
- 努力しても並にしかなれない分野に時間を使わない
仕事の仕方も重要。
ほとんどの人は読む人間か聞く人間。両方は稀。
仕事の学び方も知っておくべき。学び方は人によって異なる。
人と組むか、ひとりでやるかも異なる。助言役、教師役、相談役、それぞれ適正が異なる。
今さら不得意な仕事の仕方はせず、得意な仕方を向上させるべき。
自らの価値観を知り、組織の価値観となじませる必要もある。
「最高のキャリアは、あらかじめ計画して手にできるものではない。自らの強み、仕事の仕方、価値観を知り、機会を掴むように用意したものだけが手にできる。なぜならば、自らの得るべきところを知ることに寄って、普通の人、単に有能なだけの働き者が、卓越した仕事を行うようになるからである。」
3章 時間を管理する
成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。計画からスタートしない。
時間を記録し、管理し、まとめる。
時間を無駄に使わせる圧力は、常に働いている。
自らの目を、仕事から成果へ、専門分野から外の世界、すなわち成果が存在する唯一の場所たる外の世界へ向けるための時間を必要とする。
人の時間を浪費することもやめるべき。定期的に、直接聞けばいい。「あなたの仕事に貢献せず、ただ時間を浪費させるようなことを、私は何かしているか」
時間の浪費のマネジメントレベルの3パターン
- システムの欠陥や先見性の欠如
- 人員過剰
- 組織構造の欠陥(会議の過剰という形で徴候が現れる。会議は元来、組織の欠陥を補完するためのもの。)
- 情報の不全
時間を管理できなければ、何も管理できない。時間の分析は自らの仕事を分析し、その仕事の中で何が本当に重要化を考える上でも、体系的かつ容易な方法。
4章 もっとも重要なことに集中せよ
成果をあげる人は、もっとも重要なことから始め、しかも、一度に一つのことしかしない。
労働者の時間キャパシティよりも、貢献余地の方が常に大きい。時間の収支は常に赤字。まとまった時間を得るには、厳しい自己管理と、ノーといえるだけの不動の決意が必要。
価値を生まなくなってしまった古い活動は切り捨てなければならない。でないと、昨日の仕事に忙しくなる。
優先順位をつけることは難しくない。劣後順位を付ける必要がある。劣後順位の決定には勇気が必要。
- 過去ではなく未来を選ぶ
- 問題ではなく機会に焦点を当てる
- 横並びではなく自らの方向性を持つ
- 無難で容易なものではなく、変革をもたらすものに照準を合わせる
昨日の均衡の回復より、機会を成果に変えるほうが生産的。
集中とは、「真に意味あることは何か」「もっとも重要なことは何か」という観点から、時間と仕事について、自らの意思決定をする勇気のことである。この集中こそ、時間や仕事の従者となることなく、逆にそれらの主人となるための唯一の方法である。
Part4. 意思決定のための基礎知識
一章 意思決定の秘訣
成果をあげるには意思決定の数を多くしてはいけない。
- 問題の多くは基本に関わるもの(問題は4種類であり、対策が異なってくるので見極める必要がある
- 決定が満たすべき必要条件を明確にする(完結かつ明確であるほど、決定に寄る成果は上がる 最も困難な部分
- 必要条件を満足させる答えについて徹底的に検討する
- 決定に基づく行動を決定のプロセスに組み込む(最も時間のかかる部分
- 決定の適切さを検証するためにフィードバックを行う
意思決定は意見ではなく事実に基づくべき。ただし、最初から現実のデータがあることは稀なので、仮設である意見からスタートせざるを得ない。少なくともそのことに自覚的になるべし。
満場一致には注意。意見の不一致こそが重要であり、複数の選択肢から決定を選ぶべき。そして意見の不一致の原因を突き止めることが大切。 成果をあげる人は問題の理解に関心を持つ。
二章 優れたコミュニケーションとは何か
コミュニケーションには受け手の言葉を使う
受け手は期待していることしか知覚しない
コミュニケーションは受け手に何かを期待する
情報とコミュニケーションの両者は依存関係だけど、別物
情報が多くなるほど、コミュニケーションギャップは大きくなるので、効果的なコミュニケーションが求められる。
目標と自己管理によるマネジメントこそ、コミュニケーションの前提である。目標は、上司と部下の知覚の仕方の違いを明らかにする点で有効。 コミュニケーションを成立させるには、経験の共有が不可欠。
3章 情報と組織
情報を中心とする組織、情報型組織。それはフラット化された組織であり、階層や役職は減る。残る役職はよりハードなものとなる。
先進的な情報技術は必須ではなく、「誰が、どのような情報を、いつ、どこで必要としているか」を問う意志である。
情報型組織は、高度の自己管理を要求するがゆえに、迅速な意思決定と対応を可能にする。さらに柔軟性と多様性を内包する。
4章 仕事としてのリーダーシップ
リーダーシップの本質は行動。あくまで手段であり、何のためかが重要。
リーダーたることの第一の要件は、リーダーシップを仕事と見ること。リーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、目に見える形で明確に定義し、確立すること。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者。
第二の要件は、リーダーシップを地位や特権ではなく責任と見ること。
第三の要件は、信頼が得られること。リーダーシップは賢さではなく、一貫性に支えられるもの。
5章 人の強みを生かす
人事において、人の弱みを最小限にするよりも、人の強みを最大限にする方が大事。
「おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」アンドリューカーネギーの墓碑銘より
強みに焦点を当てることは、成果を要求すること。
人事の失敗は、人間の配置ではなく、仕事のための配置になっているから。
上司の強みを活かして、成果を上げる。
6章 イノベーションの原理と方法
奇跡や奇跡的なイノベーションは再現できない。論じるべきは、目的意識、体系、分析によるイノベーション。 まず、機会を分析する。7つの機会は、
- 予期せぬこと
- ギャップ
- ニーズ
- 構造の変化
- 人口の変化
- 認識の変化
- 新知識の獲得
第二に、イノベーションとは論理的な分析であるとともに、知覚的な分析である。
第三にイノベーションに成功するには、焦点を絞り単純なものにする。
第四に、小さく始めること。
第五に、トップを狙うこと。
逆に為すべきでないこと。
- 凝りすぎない
- 多角化してはならない、分散してはならない
- 未来ではなく現在のために行う
成功するイノベーションの条件とは、
- 集中であること
- 強みを基盤にしていること
- 経済や社会の変革を目指す
イノベーションに成功する人間は保守的。リスク志向ではなく、機械志向。
Part.5 自己実現への挑戦
一章 人生をマネジメントする
第二の人生を持つためには、それ以前から助走を始める必要がある
二章 "教育ある"人間が社会をつくる
知識は人間の中にある。知識社会とは、人間中心社会。
知識社会は、普遍性を持つ教育ある人間を必要とする。
ポスト資本主義社会は、知識社会であるとともに、組織社会でもある。組織の一員として、知識を適用する。言語と思想に焦点を合わせた知識人の文化と、人間と仕事に焦点を合わせた組織人の文化の中で生き、働く。
両者は対極ではあるけど、不可分。
多様な知識に精通する必要はなく、多様な知識を理解する能力が真に必要。それが教育ある人間。
このことを理解していないとどんなに専門知識を有していても、生産的な存在にはなれない。
これから起こる最大の変化は、知識における変化。知識の形態、内容、責任 、そして教育ある人間たることの意味の変化。
3章 何によって憶えられたいか
自らの成長のために追求するべきは卓説性、そこから充実と自信が生まれる。
誰もが、組織と自らを成長させるためには何に集中すればいいかを自問しなければならない。
成功の鍵は責任。ときには辛くても、長年かけて身につけた能力が、全く意味を失ったことを認める必要がある。
責任ある存在になるということは、自らの総力を発揮する決心をすることである。
成長のためには、自らに適した組織で、自らに適した仕事をするべし。でないと、自らを軽く見、疑うようになる。
気質や個性を軽んじることなく、よく理解するべし。
喜びは成果の中にあるべき。
232ページからの文章は、本書の集大成のよう。何度でも読み返したい。
星評価
★★★★★