レビュー
崩壊することが人為的に決定づけられた家族の物語を読む、こんなに辛いことはなかった。
愛のない、むしろ憎しみが充満するお茶の間に、まるで自分がいるかのような臨場感と没入感があった。
突き詰めて考えると不幸の原因は、啓造の精神的な弱さに端を発している。そして村井の無責任さにも腹が立つ。未成熟な男たちに振り回される子どもたちが不憫で仕方なかった。
人間の弱さが長い年月をかけて不幸の種に水をやるような、そんな物語だった。
これが60年代の本か。すごいな。
テンポは早く、夢中で完走した。小説として傑作だった。まだ上巻。下巻が気になる。
以下、心に残った箇所。
p238
日記を三年続けて書いた人間は、将来何かを為す人間である。十年間つづけて書いた人間はすでに何かを為した人間である。
p239
腹の底がわからないというのは、それだけ自分を律しているということにもなる
p252
「陽子ちゃん!お母さんと死んで…」 (何の罪もない子に、一体わたしは何をしようとしたのだろう) (陽子は、この日のことを決して忘れることができないだろう) 成人した陽子が、どんな思いで今日のこの事件を回想することかと思うと、夏枝はたまらなかった
星評価
★★★★★