レビュー
「読みたいことを書けばいい」
このタイトルを聴いた時、ブロガーとしてはワクワクしたのを覚えている。
自分のライティング・ライフを振り返った時、読み手のことはあまり考えてこなかったかも知れない。
そうか、この本は読み手の立場に立つ、ということを教えてくれるのかもしれない。この本を読むことで、ブロガーとしてまた次のステージに上がることができるかもしれない。そんな期待を持たせるタイトルは印象に残った。
しかし、な、なんと、この本は文章術の指南書ではなかった。「書くための考え方を示す本」らしい。
著者は、あの電通で20年以上コピーライターとして働いてきたという経歴の持ち主。
読んでみると、内容が濃いとは言えない。エッセンスは極わずか。これは筆者自身が語っているところでもあるけど。「書きたいことは少しだけで、なんとか肉付けしました(テヘペロ」的な。じゃあ、値段を安くしてくれ…と思わないでもないけどw
それでもブロガーとして、文章を書いている人間として、心に引っかかるものはあった。
以下、引用を交えつつ。
序章
序章では、著者の親しみやすい人間性が滲み出る。
あまりにも熱を帯びた手紙というのは、読むのが怖くてしばらく放置してしまう
わかる、分かりすぎる…!いきなりの共感。親近感を抱かせるのが上手い…w
そして、この人の自分がかつて生み出したコンテンツへの飄々とした向き合い方は面白い。「なんでこんなに頑張って書いた文章を無料公開しちゃったんだろーw 印税ほしかった〜〜」的な調子。
手離れしたものへの愛しさと信頼が感じられて良い。
一章 ブログやSNSで書いているあなたへ
文書と文章は違う
うん、当たり前だけど、そうだよな〜と。そして次に、随筆に関する言及。
随筆とは「事象と心象が交わるところに生まれる文章」であり、ネットで読まれているのはほとんど随筆
そして、会社員時代の同僚から言われた、仕事の向き合い方について。
その場限りの誠心誠意、短いけれど本気の恋
フリーランスとして働いている身には、沁みるものがあった。
さらに、広告の仕事は「書き手として書く」のではなく「読み手として書く」らしい。前者が作品で、後者が制作物。とのこと。
二章 だれに書くのか
書くということがどういうことか。
深夜、暗い部屋で腰の痛みに耐えながらキーボードを打って、自分で書いたものに自分で少し笑う、それが「書く人」の生活である
共感。共感。
まず、書いた文章を自分がおもしろいと思えれば幸せだと気がつくべきだ
そしてこの提案。書くことに限ったことではないけど、「今」そのものの幸福に自覚的になるって大切。
そして「文章術コラム 履歴書の書き方」。個人的には、以下のポイントが確かに…!と思わされた。
相手に訊ねさせることが大事
「めっちゃ腹立つわ〜!」とひとこと叫んで「どうしたの?」と訊いてもらえたらこっちのものだ
三章 どう書くのか
気になった箇所より引用。
つまらない人間とは、自分の内面を語る人
事象とは、つねに人間の外部にあるものであり、心象を語るためには事象の強度が不可欠
わたしが愛した部分を、全力で伝える
四章 なぜ書くのか
書く動機について。
成功したベンチャー企業家は、金持ちになりたいのではない。自分の正しさを証明したいのだ
なるほどな〜。「自分の正しさを証明したい」という動機は、身に覚えがある。結局自分がブログを書いているのも、ここに根ざしているのかもしれない。
前半ではのらりくらりとした調子も見られたけど、四章では剥き出しの情熱で畳み掛けてくるようで、それはズルいと思った。
総括としては、今この世の中だからこそ、それなりにウケそうな本だと思った。そしてウケてしかるべきだとも。
ライターになること、ひいては文章を書いて公開することのハードルが下がり切っている現代。その意味と姿勢を問う本書は、きっと少なからぬ人の肩の荷を下ろしそうではある。書くことに迷っている人や、辛い想いで書いている人、そして若い人全般にちょっとオススメの本。
とは言え、それなりに人生経験を積んだ人や、それなりの年齢に達した人には、真新しいことが無さすぎてオススメできないかも知れない。
星評価
★★★☆☆