レビュー
面白かった。アート版のオーシャンズ・イレブンと言った感じ。
表題のアノニムとは、謎の芸術集団のこと。芸術と言っても、画家はいない。建築家やオークションのネゴシエーターや、それから美術のコレクターなど。各分野の一流の人間が集まって構成された組織。
彼らは裏のやり方で盗品を取り返す、などと言ったいわゆる義賊的な活動を行ってきた。
そんなアノニムが次に目をつけたのがジャクソン・ポロックの「ナンバーゼロ」。ナンバーゼロのオークションへの出品を巡って、アノニムが暗躍する。
一方で、オークションの舞台が香港であることにも意味がある。本作では、香港の学生運動をテーマの1つとして扱う。
学生運動にあまり興味のなかった少年が、アノニムの筋書きによって、アートを通じて運動の中心に関わっていく。
という複線的なストーリー。アートと政治を絡めて、それでいて娯楽小説として仕上がっている。原田マハらしい一作。
惜しむらくは物語の薄さかもしれない。欲を言えば、もっと長編でもよかった。それに、表紙とタイトルの印象から勝手に大人っぽい物語を想像していた。けれど角川文庫だし、ターゲット層は若年層に設定されているのかもしれない。まぁそこはしょうがないかな。
星評価
★★★★☆