日々是書評

書評初心者ですが、宜しくお願いします ^^

【きっと明日からまた優しくなれる】ボクの彼氏はどこにいる? - 石川大我

レビュー

この本の単行本が出版されたのが2002年のこと。自分はまだ11歳だった。

「ボクの彼氏はどこにいる」

なんてシンプルで分かりやすく、そして柔らかさのあるタイトルなんだろう。11歳の自分がこの本を見たら、どう思ったんだろう。

その頃のゲイとしての自覚はぼんやりとしたものでしか無かった。もしもこの本を手に取っていたら、自分の人生は良い方向に向かっていただろうか?

いや、あまり自信が無い。感化されて早まって、空回りなカミングアウトをしていたかもしれない。

結局、今がこの本を読むべきタイミングだったのかもしれない。

正直なことを言えば、このレベルの文章を書けるゲイは山ほどいる。というか、ちょっと読み応えのあるブログレベルの文章だ。

それでも、読み進めていくと、引き込まれている自分がいる。ゲイの「あるある」とでも言うべき体験や心情を、とてもプレーンな言葉で書いてくれるので、スッと胸に入ってくる。

この本の半分は、作者が10代だった頃の実体験を描く。

個人的に、10代は楽しい事ばかりではなかった。その反動か、20代は楽しくて、年々人生が良くなっていく感覚がある。だから、10代の頃のことなんて忘れてしまった。

でも、この本には、「あの頃」が詰め込まれている。28歳の自分が過去に置いてきた心象風景を見せてくれる。

抑圧されていた頃の感情。ゲイだとバレないように気を張る毎日。どこに助けを求めればいいのか分からない閉塞感。そして現実逃避のように抱き続けた、未来への漠然とした希望。

それが、具体的なエピソードを伴って、書かれる。

例えば、「寝言でゲイだとバレるかもしれないから、修学旅行が憂鬱だった」というエピソード。今では笑ってしまうようなキュートなエピソードだけど、でも渦中にいる10代のゲイにとっては笑い事ではない。

人は、生まれる家族や場所を選べない。そして、経済的に自立するまでに18年の時間がかかる。どんなに世界が良くなろうとも、どうしてもゲイとして苦しい期間を過ごす子どもたちが生まれてしまう。その現実をすっかり忘れていた。

だけど今はこの本が傍らにある。忘れていた苦しみや葛藤を、リアルな感情としていつでも思い出させてくれる。 この本があって良かった。石川大我さんが「ボクの彼氏はどこにいる」を書いてくれて良かった。

この本があるから、すっかり危機を脱した今でも、きっとまだ優しくなれる。今まで以上に、人の痛みに寄り添えるかもしれない。

ちょっと余裕のできた一人のゲイとして自分にできることがあるかもしれない。そんな使命感を持たせてくれた、若いゲイにはとりわけお勧めしたい良書。

星評価

★★★★★

今回紹介した本

書いている人

www.everyday-book-reviews.com