日々是書評

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【泣けない女vsナチュラルクズ彼氏】かわいそうだね? - 綿矢りさ

綿矢りさ「かわいそうだね?」の表紙

レビュー

総括

表題作の「かわいそうだね?」について。

樹理絵は交際している彼氏がいる。その彼から突然、元カノを自分の家にしばらく泊めたいと打ち明けられる。元カノは仕事が無く、家賃が払えない状況。実家には「帰りたくない」と言う。そんな彼女を助けてやりたいという彼は善意の人だった。

樹理絵は最初ショックを受けるものの、彼の優しさと元カノの不遇を想い、自分を納得させる。

樹理絵は地震が苦手だった。ハイヒールやブランド品で身を固めたイイ女だった。仕事仲間からは頼られる「泣けない女」だった。彼氏から大事にされたくてタバコを辞めて、関西弁を封印した。

物語で散りばめられた、樹理絵の属性の全てが伏線となる。物語は終局に向かいその加速度を上げていき、それまでの全てを吹き飛ばす。

結局彼氏はナチュラルクズのままだった。元カノは心底ビッチだった。

最後には脇目も振らずに爆発し、樹理絵は彼氏に三下り半をつきつける。このカタルシス。爽快感。たまらなく良い。

彼氏と元カノはきっと情けなくもお幸せにやっていく。樹理絵は一人になってしまった。

でもそれで良い。全読者は樹理絵の味方なのだから。

構成、キャラクター、文章力、日常描写、文量すべてが素晴らしい。文句なしに星5つ。2019年に読んだ小説の中で、ピカイチに良かった。

各論

以下、各論。

冒頭の「東京と地震」が良い。エッセイ風味の文章は共感と発見を誘い、物語にソフトランディングしている自分がいた。綿矢りさの軽やかな手引が心地良い。

百貨店で働く樹里絵が「ヒールを履く私なんて震災では真っ先に淘汰される」と空想するシーンは鮮烈な印象を残す。物語の随所に赤い絵の具のようなビビッドなビジュアルを伴った描写が登場し、それが良いアクセントになっている。

一方で女の一人暮らしの、なんとも言えないリアルな描き方も好きだ。

20代後半になって自分でアクセサリーが買えるようになったのは素敵だ。けれど狭い質素な1Kの部屋で、新品の服だけが輝くというこのアンバランスさ。現実と欲望が共存する空間が愛おしくて堪らない。雨宮まみの「東京に生きる」を再読したくなる。

百貨店での日常風景も良い。

奇天烈な女性客のエピソードはコラムの連載のよう。友だち複数人で来店した女性客は買わない、一方で母娘の客はあっさり買う。そんな大衆観察の描写もよい。仕事小説のような側面も楽しめる本書だった。

売上が足りなくて自社製品を買うアパレル店員の心情には、胸が締め付けられてしまう。「ファッションが好きだから」「自分をマネキン化して売りやすくするため」。自分に嘘を言い聞かせて、不条理を正当化する。なんてリアルだ。

引用

以下、良かった箇所の引用。

私は自分だけが見つけた特別な男性に弱い。

その絶望的な茶化し具合の言葉がよくあてはまる。p62

守ってあげたくなる保護欲は存分にかきたてられるし、おとなしいから邪魔にはならないが、ずっといっしょにいると惨めな気分になるオーラが出ている。p64

星評価

★★★★★

今回紹介した本