レビュー
天地明察の上巻は、春海の成長ストーリーの様相を呈した。下巻はどちらかと言えば、暦の制定プロジェクトがメインになってくる。
暦の制定プロジェクトはその実、会津藩の思惑だった。藩主の正之は民生を重んじる。そんな彼が綿密に進めてきたのが、この暦の制定プロジェクトだった。
しかしそれは、古来より天皇の仕事であった星見を幕府が行うということ。「時」と「方位」を奪うこととなる。
たかが暦、されど暦。暦を制定するということは、宗教、政治、文化、経済を統べるということ。
ここに来て読者は、このプロジェクトがいかに大きな意味を持つか理解する。
幕府と朝廷という2つの勢力の狭間で、春海は1個人としてプロジェクトを推し進めていくことになる。なるほど、上巻の伏線が回収される想い。
だけど朝廷を首肯させることは容易ではない。ああ、こういう保守的な勢力に立ち向かっていくストーリー…。ベタだけどちょっと燃えるね。
それから、「えん」や「関」が再び登場。春海の強力な助太刀となり、プロジェクトは大きく前進していく。一方で、人の死は少なくない。当時の平均寿命を考えれば当たり前なのだけど。江戸時代の人々は、現代の人々よりもずっと多くの死に触れていたはず。そのことが人生に及ぼす影響を考えたときに、改めて新鮮な想いがした
総括として面白かった。江戸、暦、碁打ち、当時の学問…自分の知らないことをふんだんに盛り込んだ1作。面白く読んだ。けれど1歩物足りない感じ。良作ではあるんだけど、傑作まで至らなかった感じ。事前の期待が高すぎたのかもしれないけど。
星評価
★★★★☆