日々是書評

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【良いデザインは人間のためのデザイン】誰のためのデザイン? - ドナルド・ノーマン【要約】

総評

扱うテーマはまず、デザインそのものについて。良いデザイン、悪いデザインについて説かれる。

アフォーダンス、シグニファイア、制約、対応づけ、フィードバック」のテクニックを概念を利用して、発見可能性を高めてやる。

良いデザインとは人間のためのデザイン。そのために本書は人間の性質について論じる。記憶、得手不得手、取り巻く環境など。

それから、実際にデザインプロセスについても書かれる。開発・製造の現場では、デザイナは様々なステークホルダーと協業することになる。 その中での立ち居振る舞いについて書かれているのは、実際的で良かった。

また、自分が日頃接しているものについて、改めてそのあるべき姿が言語化されているのも面白い。 「リマンイダー」はシグナルとメッセージの2つの性質を持つ、など。

事前に予測してはいたが、概念的な本だった。具体的なデザインのテクニックもさることながら、理論的な部分もあり、面白く読んだ。

学習的な面だけではなく、読み物としても面白い。デザイナはもちろんのこと、他業種の人間が読んでも学びのある1冊だと思う。

メモ

以下、読みながら書いたメモ書き。

第1章 毎日使う道具の精神病理学

良いデザインは発見可能性の理解という特性を持つ。(見ただけで何ができるか、どう動くか分かる。

間違うのは機械とそのデザイン。使いにくさを理解する義務は人間にはない。 技術者は論理的すぎる。人間理解を深めることが大事。 誰もが間違えるという仮定のもとにデザインする。 問題が起こったときこそ、デザインの見せどころ。

テクノロジーやインタラクションは進化していく。が、デザインの進化は後追い。同じ誤りを繰り返してしまう。

HDC(人間中心デザイン)は哲学と進め方。注目する領域として、インダストリアルデザイン・インタラクションデザイン・エクスペリエンスデザインがある。

人間は自身のニーズや出会った困難に気づいてない。問題を特定せず、暫定的なデザインを繰り返す。

発見可能性は5つの心理学的概念から得られる。アフォーダンス、シグニファイア、制約、対応づけ、フィードバック。

アフォーダンスは、物理的なものと人との関係。どのような行為が可能か。ガラスは透明なので、見ることをアフォードする。一方で通過することには反アフォーダンス的。

シグニファイアは、アフォーダンスがどこで可能かを示す。

デザインで注力すべきはシグニファイア。 説明書きは悪いデザイン。

対応づけは、要素同士の関係を意味する。 グループ化と近接性が肝要。

フィードバックは文字通り。フィードバックは素早くてはならない。行為者が諦めて不在となれば、行為の時間や労力が無駄となる。また、フィードバックは何が起こったのか分かりやすく、それでいて押し付けがましさを抑え、なおかつ優先順位を考える。

概念モデルは例えば、コンピュータのファイルアイコンによって確立される。ただしファイルが取得不能になれば混乱する。概念モデルは、それを支持する条件が保たれているときのみ役立つ。

概念モデルは理解を助けたり、モノの動きを予測したり、動かなかった場合にどうすればいいか知るのに役立つ。

デザイナとユーザーは直接対話しない。 デザイナの持つ概念モデルは、製品が持つシステムイメージとなる。そしてシステムイメージとのインタラクションを通じて、ユーザーは概念モデルを得る。

第2章 日常場面における行為の心理学

デザインは、実行と評価という2つの領域のへだたりに橋をかける手助けをする。 実行は何ができるか、どうやって動かすか。評価は何が起こったのかの、期待通りだったのか。

行為には7段階のサイクルがある。まず、ゴールに基づいてプラン・詳細化・実行。そして、外界からの知覚・解釈・(事前期待との)比較。

これらは無自覚的である場合があるし、ゴールがサブゴールを呼ぶ場合もある。完了までに長期間かかる場合も。

ゴールの根本原因解析が新しい製品を生む。(人はドリルではなく穴がほしい、ひいては本棚をかけたい)

本能レベル、行動レベル、内省レベルの3つの段階をよく理解し、デザインする。

実際の現実よりも、認知された状態の方が重要な場合もある。人がどのように認知するか。当然、間違って認知されることもある。

学習された無力感。失敗を自分のせいだと思い、できないと思い込んでしまう。悪いのは自分ではなく、環境でもない。デザイナが悪い。

学習された無力感の逆もまた然り。失敗という言葉を、学習体験と置き換える。

・人が困難を感じている部分を、製品を改善できるシグニファイアだと捉える ・エラーメッセージを、ヘルプやガイドに変える ・ヘルプやメッセージのガイドから直接問題を修正できるようにする。人がタスクを継続できるようにする。進行を妨げない。最初からやり直させるようなことは絶対にしない。

ヒューマンエラーというよりは、デザインエラー。人間は機械に合わせて動かされすぎている。不適切な行為が起こる可能性を最小限にする。物事がうまく行かないときにうまく行くようにするのが、デザインにおいて難しくも大切な部分。

フィードバックと対になるのが、フィードフォワード。シグニファイア、制約、対応づけを適切にすることで与えられる。

第3章 頭の中にある知識と外界にある知識

人間は知識が不正確でも、正確な行動ができる。その理由は以下の4つ。

・知識は頭の中と外界にある ・高い正確性は必要ではない ・外界に存在する自然な制約がある ・文化的な制約や習慣的な規則についての知識は頭の中にある

セキュリティはデザインの主要な問題を提起する。人は複雑なパスワードを覚えられない。しかし、テクノロジーは複雑化している。

短期記憶の容量はかなり少なく見積もる。 相互に影響しない、視覚と聴覚を併用したデザインにする。など、モダリティを利用するのが良い。

長期記憶の容量は膨大だが、その定着と取り出しは正確ではないことがある。

これまで学んだテクニック(フィードフォワードや対応づけなど)で手助けするのがよい。人が記憶するのを手助けする良い方法は、記憶を必要としないようにすること。

科学は真理を追求するが、実践では近似モデルで十分。概算値が分かればよい、という場合が多い。また、紙に書くといった「テクノロジー」を使うのがよい。

想起について。未来記憶とも。友人との約束などをどのように覚えていればよいか。何かリマインダーがあればよい。そして、それはシグナルとメッセージを含むものでなければならない。シグナルとは予定があることを、メッセージとは予定の内容を教える。 もちろん、リマインダーは適切なタイミングに適切な場所で為されるべき。

外部記憶と頭の中の知識はトレードオフ関係。外部記憶は物理環境依存。しかも、それを取り出す方法と条件を知っておく必要がある。

メタファーは文化により異なる。例えばウェブサイトのスクロール。テキストを動かすのかウィンドウを動かすのかで、スクロール挙動は異なる。 メタファーの切り替えが発生するとき、デザインに難しさが生ずる。そして移行に際しては、混乱が発生する。

第4章 何をするかを知る ―制約、発見可能性、フィードバック

4つの制約を見ていく。 物理的制約は、突起を大きくして小さい穴に入れなくする、など。 文化的な制約。 意味的な制約は、例えば雨よけは頭の上にある必要がある。しかし、これは変遷していく可能性が。自動運転が主流になれば、赤いブレーキランプの必要性は薄まるかも? 論理的な制約は、例えば最後のひとつの部品。もはやそこにしかつける場所がない、と言ったような制約。

スイッチと電気の対応付けについて論じられる。部屋の間取りを模したパネルの上にスイッチを配置すれば分かりやすい。 さらには、タッチパネル式にするとより良い対応付けが実現できる。 一方で、タッチパネルは手がふさがってると使えない(肘で押したりできない、など)という制約もある。

望ましい振る舞いを強制するのが、強制選択機能。(例、キーがなければ車は動かない) 安全工学の面では、インターロック・ロックイン・ロックアウトの3つがある。

目に見えるアフォーダンス、シグニファイア、発見可能性、フィードバックの即時性…これらがうまく行かないときは諦めの原則に従う。つまり、標準化する。

音はフィードバックを伝えるのに有効。しかし、自然であるべき。うるさすぎず、意味不明であってはいけない。

第5章 ヒューマンエラー?いや、デザインが悪い

ヒューマンエラーがあまりにも多いなら、デザインが悪いかもしれない。根本原因解析を行う。

リスクを取ってでも成功することに対して報酬を与えるなら、それは違反に報酬してるとも言える。

エラーは大別して2つ。スリップとミステイク。スリップは、行為ベースと記憶ラプス(行為はしまうものを間違う、記憶は消し忘れる、など)。ミステイクはゴールか間違ったプランをベースにしている。ミステイクは知識ベース、記憶ラプス、ルールベースの3つ(知識はグラムではなくkg、記憶は注意散漫、など)。

スリップは熟練者ほど行いがち。深く考えずにできてしまうゆえ。 記述類似性スリップは、状況が似ていると行為を間違うもの。スイッチを充分に区別できるようにしておく、など。 記憶ラプスの原因の多くは割り込み。対応は、必要なステップを最小化すること。完了に必要なステップについての鮮明なリマインダーを用意すること。 モードエラーは、状態によって動作が異なる時に起こる。モードをなくすか、現在のモードを表示しておくこと。

時間と経済的な理由によって社会的な圧力が働くことがある。これによってエラーが黙殺されてしまう。エラーは報告されるべきで、早期発見されるべきでもある。 また、ミステイクが正当化されることにも注意。おかしなことが起こっていても、正当(に思える)理由を見つけてしまえば人はエラーとは思わない。

undo は強力なエラー対策ツール。確認メッセージはあまり効果がない。特にミステイクに対しては。 対策としては、確認メッセージを目立たせる。そして操作を可逆にする。(削除ファイルをどこかに退避させておく、など)

意味的妥当性チェックは、操作内容を意味的に確認する。(振込額がいつもより多い、など)

スイスチーズモデルは、自己発生の原因をよく表している。原因は通常複雑。対応策としては、スライスチーズの数を増やす、チーズの穴を小さくする、チーズの穴が重なったときは人間の確認を入れる。

その人に本当に過失がある場合は(技能不足・飲酒運転など)、良いデザインが手助けとはならない。

5章の末尾にキーとなるデザイン原則がまとめられている。

第6章 デザイン思考

問題は発見されなければならない。真に対処すべきは問題であり、その症状ではない。良いデザイナは課題を発見するところから始める。(デザイン思考) デザインを通じて、人間の願望・ニーズ・能力に合致するようにする。

デザインのダブルダイヤモンドモデルとは、問題の発見と解決の2つのフェーズに関して、それぞれ発散・収束を置いたもの。

人間中心デザインプロセスは、発散・収束の中で行われる。観察、アイデア創出、プロトタイピング、テストの4段階を繰り返す。 観察は、文化人類学に由来する応用エスノグラフィーがよい。人が実際の場所で、実際の状況で利用するところを観察する。

デザインは、デザイン・リサーチの結果だけではなく、マーケティングも踏まえる。購入と使用の両方の要因を含ませる。

イデア創出はデザインの楽しい部分。この段階では少ないアイデア固執せず、数多くのアイデアを出す。そして制約に捕らわれず、創造的になる。また、あらゆることを問う。

プロトタイピングでは、問題が十分に理解されているかどうか確認できる。

大規模で一様ではない母集団に対しては、人間中心デザインではなく活動中心デザインがよい。

ユーザーと購入者が同一とは限らない。(オフィス家電など) まだ、デザイナにとっては、開発者でさえユーザとなり得る。デザインリサーチ結果の消費者。

複雑さ自体は悪ではない。事実、台所は複雑そのもの。対処すべきは混乱。

標準化は大事だが、テクノロジーの進展がそれを追い越すことはある。

星評価

★★★★☆

今回紹介した本