レビュー
あまりに長いこと話題になっているので遅まきながら購入。
結論から言うと、文句なしに星3つ。ふつーの小説だった。
ピアノの話なら恩田陸の「蜂蜜と遠雷」の方が夢中になれる。少し不器用な主人公が仕事や同僚との関わりを通じて成長する話なら、三浦しをんの「舟を編む」の方が熱くなれる。
じゃあこの本の特徴をあえて挙げるなら、主人公のスタンスかもしれない。
調律師という仕事を選んだ主人公は、新人ながらにひたむきに観察と熟考を重ねて成長していく。そしてピアノ、というか音楽に対しては混じり気のない執念がある。
だけど、彼は周囲と深く関わることはない。
顧客である双子の姉妹の内、一人はピアノを弾くことを諦めて、もう一人は弾き続けることを決意する。あるいはかつてピアニストを目指したものの諦めてしまった上司がいる。
普通の小説ならば深く立ち入って深い理解に到達するようなものなのに、主人公はあくまで遠巻きに見ているだけで、直接的に関わっていこうとはしない。
音楽とか感じ方を通じて、間接的に人と関わる道を選んで、結果的にそこに適正があったのかもしれない。
それとこの小説では、性質の違う弟への嫉妬とか、都会と地方の対比みたいなものが匂わされるけど、そこをしっかりと色濃く描くことはあまりしていなかったように思う。
あくまでこの主人公、というかストーリーは淡々としていて、その一歩引いた感じが、調律師という世界の空気感を醸しているのかな、とか思ったりした。
文章のキレにハッとさせられることもなく、ストーリーは単調で、ややもすれば冗長気味。 良くも悪くもふつーの小説だった。
星評価
★★★☆☆