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【書評】グロテスク 下 - 桐野夏生

グロテスク 下 (文春文庫)

グロテスク 下 (文春文庫)

就職先の一流企業でも挫折感を味わった和恵は、夜の女として渋谷の街角に立つようになる。そこでひたすらに男を求め続けて娼婦に身を落としたユリコと再会する。「今に怪物を愛でる男が現れる。きっと、そいつはあたしたちを殺すわよ」。"怪物"へと変貌し、輝きを放ちながら破滅へと突き進む、女たちの魂の軌跡。

レビュー

グロテスクの下巻は、ユリコを殺害したチャンという中国人の回想から始まる。 農村で生まれて都市部に出稼ぎに来たチャンの壮絶な半生が語られるのだけど、これが驚くほど引き込まれた。

この小説は、東電OL殺害事件をモチーフにしているようだけど、チャンの話を差し込むことによって、中国の貧困問題や移民問題までも扱っているようで、社会派小説としての重みが増していた。

そして、物語の主観はチャンから再び主人公へ。 チャンの裁判の後、同窓会のごとく再会した主人公とミツルと木島。

変わり果てたミツルは以前のように言い淀む癖を捨てて、主人公の弱さと惨めさを面と向かって指摘する。

一周回ったミツルは達観しており、この物語の中では比較的穏当な妥結点を見出だせているかもしれない。 ミツル自身が語った「自分と向き合うこと」は、主人公と和恵には圧倒的に足りていない部分だった。

そんなミツルから渡された晩年の和恵の日記を主人公は読むことになる。 この和恵の日記がまた濃すぎて…。終盤にこんな盛り上がりを見せるのかと、とにかく最後まで惹きつけられた。

学生時代の和恵と言えば空回りして完全に浮いていたのだけど、日記の中で明かされる大人になってからの和恵がとにかく痛々しい。 その痛々しさは言動や振る舞いだけでなく、存在自体が社会から撥ね付けられているような、どうしようもないレベルに達している。

異常な父の元で育てられ、承認欲求が満たされることがないまま大人になってしまった人間の終局を見ているようで、あまりにも辛かった。 とにかく、グロテスクの下巻は、全編を通して悲しい気持ちにさせられた。社会通念や超えがたい階級のもとで、人間が傷つきボロボロになりながら孤独になっていく様がありありと描かれる。

だけど、老いたユリコの本音を聴いたのは和恵だった。 チャンたちとの性行為の中で、初めて絶対的な手応えを感じたのも和恵だった。

社会的に見れば孤独で下層にいるような和恵だけど、そんな中でも救いに出会えたかのようで、胸が熱くなった。

そして最終章にて、ミツルの言葉と和恵の日記を通じて、ようやく主人公は変わり始める。ユリコが聡明で恐ろしく達観していたことを認め、新しい扉を開く。 それは少しポジティブだけど、あの終わり方はホラーってことでいいのかな?

とにかく最後まで内容が濃くてアップダウンが激しい、紛れもない傑作だった。

星評価

★★★★★

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