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【中上級者向けSF短編集】ビット・プレーヤー - グレッグ・イーガン

書評

グレッグ・イーガンによるSF短編集。6つのそれぞれ領域の異なるストーリーが収録されている。

SF的な紹介をするなら、以下の通りになる。

  • 七色覚: 身体拡張、超常感覚
  • 不気味の谷: 死後の人格コピー
  • ビット・プレーヤー: ゲームエンジン、AI
  • 失われた大陸: 時間旅行
  • 鰐乗り: 宇宙航行、ファーストコンタクト
  • 孤児惑星: 惑星探査、歴史解明

物語としては「失われた大陸」が印象に残っている。舞台はとある砂漠地帯から始まる。未来人によって情勢が不安定化したこの地域から、主人公は脱出することとなる。この脱出とは、未来に行くこと。(砂漠地帯と時間旅行と言えば、以前読んだテッド・チャンの「息吹」を思い出した。)

案内人とともに未来へやってきた主人公は待ち受けていたのは、収容所だった。そこでは時間旅行者たちが一時勾留されており、自由になる前に長い時間をかけて審問が行われていた。

SF的なギミックとしては時間旅行を扱っているのだけど、グレッグ・イーガンが描きたかったのは難民問題だと考察する。というか、収容所における状況描写・心理描写はとても秀逸で、まさしく難民を取り巻く状況をよく表している。(余談だけど、その領域の作品としては「存在のない子どもたち」という映画が非常に良作だった。)

だけど、最後には希望の幕引きとなる。非常に爽やかな読後感。グレッグ・イーガンはこんなソフトな物語も書くのかと、新鮮な想いを抱いた。

表題作の「ビット・プレーヤー」は難解だった。序盤では、「白熱光」を思わせた。未知の世界で目覚めた主人公は、違和感の正体を重力だと察知する。重力が下向きではなく、東向きになっている世界で、主人公は石をつかって実証実験を行う…というまさしく白熱光のような始まり方。

しかし程なく、その場に居合わせた女性から解説を受ける。この世界は仮想現実であり、現実のプロットをベースにしてゲームエンジンレンダリングしているのだと。そして主人公を含め、周囲の人物は意識を持った AI である、ということも判明する。

一応ストーリーらしきものはあったけれど、どうも理解が追いつかなかった。物理学の知識が無いと、完全理解は不可能と思われる。

1作目の「七色覚」については、良作だったと思う。

主人公がアプリを利用して身体改変を行う。その結果、通常状態よりも可視光が増えた。超常感覚を得た主人公は、文字通り見える世界が変わっていく。その描写は没入感を伴ってなんともリアル。

また、その後の人生の苦悩までも描くのは、ヒューマンドラマ的で、個人的には好みの短編だった。

2作目の「不気味の谷」については、佳作かな。

ある人物の死後に、その人物の人格を転写したアンドロイドが起動された。しかし彼の記憶には欠落した部分がある。それは一体何なのか。なぜ欠損している箇所があるのか。

それを探っていく、というミステリライクなお話。結局よく分からないまま終わった印象。

5作目の「鰐乗り」と6作目の「孤児惑星」について。なんと「白熱光」と世界観を共有する。

「鰐乗り」では、「白熱光」以前の世界を描く。「融合世界」とのコンタクトを拒絶していた「孤高世界」に対して、初めてコンタクトを成功させた人間のお話。時空間のスケールの大きさは「これぞSF!」と言った感じ。それから、愛のお話でもあり、こんなパートナーがいれば理想だなと思わされた。

「孤児惑星」は、生物と化学の知識がふんだんに盛り込まれ、ほとんど理解できなかった。けれど、そこはグレッグ・イーガンの手腕。理解できないけど、惑星探査の没入感を持つことができたし、それなりにハラハラさせてくれた。知的生命体の良心を感じさせる爽やかなフィナーレも良い。良作。

以上、6作が収録されたSF短編集。総括としては、決して初心者向けではないと思う。中上級者向けと言った印象。けれど、グレッグ・イーガンの世界観をしっかりと感じられる6編だった。SFファンなら1読の価値あり、かな。

星評価

★★★★☆

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