日々是書評

書評初心者ですが、宜しくお願いします ^^

【パートナーシップの築き方】二人で生きる技術 - 大塚隆史

書評

新宿3丁目の「タックスノット」というゲイバーを営む、大塚隆史さんによる書籍。

内容は、筆者の半生を語った自叙伝であり、なおかつパートナーシップに関する持論を展開していく。

個人的には面白いと感じた。星評価するならば、星4.5くらいの面白さになるかと思う。

過去の描写がビビッドでよい。幼少期や青年期について、筆者の記憶力の強さに驚かされる。描写は詳細で、なおかつその中に感情を込めるのが巧い。

行ったことのない当時のニューヨークに自分が立っているような、自然に手を繋いでデートをするゲイカップルに感銘を受けたような、追体験のような読書ができる。

ゲイの人生について問われたら、自分語りするよりもこの本を1冊薦める方がスムーズかもしれないと感じるほど。

ただし、生きてきた時代背景がそうさせるのか、筆者には恋愛的な部分で奔放さ(と言って良いんだろうか)を感じてしまって、その部分を受け入れがたい読者もいるのではないだろうか。と思ってしまった。

例えば、彼は付き合って9年になるパートナーがいたが、疎遠になってきてしまって、バーに来店した若い男性を自宅に呼び、その日の内にキスを迫る…など。

しかし、そういう部分はありつつも、全体的には学ぶべき箇所がある書籍だった。奔放さとは書いたものの、筆者のパートナー歴は10年、9年、そして現在のパートナー、とそれぞれ長い。その中で学び、試行錯誤した点については、若い読者にとって教訓となりえるかもしれない。

例えば、二人の間の問題について。どちらかが悪い、ということではなく共有することが大事。二人の問題にしてしまえば、問題の半分は解決したようなもの。などと言った教えは、深く頷ける想いがした。

引用・抜粋

第一講 「二人で生きる」の始まりと理由

筆者が今のお相手と出会うまでのお話。

筆者が生まれ育った、あまり幸福ではなかった家庭について。初めての、自分以外のゲイとの出会いについて。新宿2丁目との出会いと、ワンナイト文化への違和感について。アメリカ留学と、現地で受けた刺激について。「インランちゃん」との交際と、「カズ」との出会いについて。

面白かった。時代の風景と、その中に立つ筆者の感情を描写するのが上手い。惹き込まれた。

パートナーシップの問題は、両者のどちらか一方にあるのではない。それを共有し、二人の問題にするのが大事。共有できた時点で半分は解決したようなもの。というのが、過去の自分の独りよがりな失敗談を思い起こさせつつ、身にしみた。

第二講「二人で生きる」日々の積み重ね

同棲に関するお話。

同棲のルール作りはまずは平等に。平等とは、同じことを同じだけ分担するのではなく、得意不得意を勘案することも大事。また、どうしてもできないことは許しあうことも大事。自分の「普通」は、他人から見て「謎」であることも。

カップルの友人について。カップルの友人ができるとそこから繋がりが広がっていって、たくさんのカップルのネットワークができる。

先輩カップルから長続きの秘訣として犬が猫を飼うことを提案された筆者。筆者の場合は、二人で開業したタックスノットというゲイバーが、それに代わるものとなった。お互いの苦手分野を補いながら、ふたりで育てていくような感じ。

付き合いが長くなるとなくなってしまうセックスについて。別になくても幸せに過ごせているんだけど、ひとつ懸案事項を抱えてるような気持ちというのはよく分かった。

パートナーのカズさんの長引く体調不良をきっかけにして受診して判明した HIV 陽性。そこからたった3ヶ月で、この世を去ってしまったカズさん。あまりにも早く当時の筆者の悲しみが自分のことのように胸にズシンときた。

第三講 覚悟、決意、考える

かずさんと死別したあと、筆者は四人の人に交際を申し込んだり申し込まれたりするが結局は短命に終わった。この時に筆者はパートナーシップを超えた人生の生き方について深く試行錯誤する。 その時に参考になったのが彼の祖母の生き様。基本的には一人で生きているが、役者である彼女は、たくさんの人と一緒に時間を過ごししかし一人の時間を過ごすのもうまかった。精神的に強いというよりは一人の時間を楽しむのが上手。

それから出会った男性と筆者はまたパートナーシップを結ぶことになる。その男性とは9年続いたが、相手の家の事情で疎遠になってしまい、筆者が新しいパートナーを見つけたことで関係は終了。とてもたくさんのものをもらった、と相手の方から最後に言われたのは、本当にその通りだったのだと思う。

第四講 辿り着いた「二人で生きる」

それから筆者は、また新しい身子という男性と交際を始める。この男性とは現在も関係が続いており同棲関係にある。

二人での外出について、会話のネタをハンティングしに行くという感覚はとても共感した。