日々是書評

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【レビュー】刑務所しか居場所がない人たち - 山本譲司

総評

世間知らずの自分だから、刑務所の実態を知らずに生きてきてしまった。

我々の想像に反して、イベントごとを重視している刑務所もあるのだとか。

クリスマスやバレンタインデーを受刑者で楽しむらしい。

それに対して、一部から批判がある。税金で犯罪者を楽しませるなんて…!と。

だけど筆者は説く。彼らの中には、人生で一度たりともクリスマスを祝ったことが無い人がいる。

ああ、そうか。もうすっかり、そんな人は自分の周りにはいない。ゲーテッドコミュニティではないけど、恵まれた人の中にいるのだと再認識してしまった。

知らず知らずのうちに自分の世界認識が狭まっていようだと知る。

それから、刑務所には刑務官がいる。

若い刑務官は息巻いてやってくる。犯罪者を更生させようと意気込んでいる。

だけど、想定外の現実を目にする。知的障害を抱える受刑者や、病気の受刑者、それから高齢で歩けない受刑者を前にする。

とある刑務官は恐ろしく優しくなったという。泣いて眠れない受刑者に子守唄を歌ってやる。面会を拒絶する受刑者を説得して、その後泣いて感謝される。

クリスマスを祝ったことがない人たちが、やさしい刑務官に見守れて、生まれて初めてイベントを楽しむ。

セーフティネットからこぼれ落ちた場所でさえ人情とやさしさがあるのだと、筆者の語る現実に泣けて仕方なかった。

だけど、彼らは「シャバ」に出ても居場所がないから軽犯罪を犯して戻ってくるという。

外の世界には、精神的な繋がりがない。経済的なよりどころがない。生活の基盤がどこにもない。そういう現実が待っている。

セーフティネットを突き抜けた場所として、刑務所が機能している。そういう側面はあるのだと知った。

「刑務所しか居場所がない人たち」の意味を理解する。

受刑者として過ごした筆者だからこそ、同じ目線で語ることができるのかもしれない。ポップな装丁と、やさしい語り口だけども、だからこそ現実の問題としてスッと抵抗なく胸に入ってくる。

読書家として、この本を読めて良かった。

読みながら、何度か本を閉じて一時中断した。本を閉じて目を閉じないと、涙がこぼれてきそうだった。

筆者の説く「ソーシャル・インクルージョン」のために、できることをしよう。「生き直し」を必要としている人のために、自分ができることをしたい。

各論

以下、本書を読みながら書いたメモです。各章の感想や、印象に残った箇所など。

受刑者の2割は知的障害があるという。

知的障害を守るはずの刑法39条が機能しているとは言えない。精神鑑定士の人手不足と、国選弁護士のモチベーションの上がらなさが主因。

罪を犯した知的障害者は加害者になる前に、長いあいだ被害者として生きてきた人が多い。

知的障害者が取得するのは療育手帳。ただし発行元は国ではなく自治体。名称も基準も自治体によってバラバラ。 財政の良好な自治体ほど基準が緩い。そうか、東京(というか大都市)はある意味では障害者にとって生きやすいのかも?

刑務所よりもガチガチに障害者を縛る福祉施設への言及もある。

知的障害者グループホーム建設に反対する地域住民に対して、筆者は説得に成功した。筆者の活動が本当に素晴らしい。

知的障害や発達障害のある人の訓練として、動物系のNPOが協力している。コミュニケーションが苦手で命令を出す経験に乏しい彼らが、犬に指令を出す。犬が言うことを聴く。それが成功体験になる。という活動は素敵だと思った。 出所した後の生活について筆者は「生き直し」という言葉を使う。この言葉、いいね。

認知症の人は「ご飯をたべたい」と何度も言う。 「さっき食べたでしょ」は悪手。本人は食べてないと思っているのだから。”ふるさとの会”のスタッフは「一緒につくりましょう」とか「いま支度します」と言うらしい。すると本人はしばらくして「やっぱりお腹空いてない」となるんだとか。なるほど。否定するのではなく、寄り添う。

出所した後の支援が「出口支援」、入所する前の支援が「入り口支援」。社会福祉士や弁護士による、罪状の軽量化など。障害者が刑務所に入らずに済むケースが出てきている。ただし、究極的には刑法自体の改善が必要。

協力雇用主制度 受刑者を雇うことを厭わない雇用主。19000社弱が登録。ただし実際に雇用実績は全体の4%ほど。かつ、提供される仕事と求職者の適正にミスマッチがある。

「支援」と「役割」で人は変わる。にたいへん共感。ゲイとして、役割がもたらす充足感には身に覚えがある。

ただでさえレッテルを貼られがちな「障害者」が「前科者」というレッテルまで貼られてしまう悲しさ。ソーシャルインクルージョンが大切。

今回紹介した本