総評
「LGBT初級講座」と銘打った本書。1人のゲイ当事者として手にとってみた。
「LGBT」とは言え筆者はゲイであり、ゲイの視点が多い。しかし杉野文野さんというトランスジェンダーの友人の話が度々登場する。文中では杉野文野さんの書籍が紹介されており、次はそれを読みたいと思わされた。
そういう意味では、ゲイに偏りすぎることなく、それなりにバランスのとれたLGBT本だったように思う。
本書では、筆者の半生回顧にその文量の大半を割く。
家族へのカミングアウトのシーンはなんだかんだ胸が熱くなってしまった。
それから、筆者の主張が強めな点が個人的にはグッド。「カミングアウトは人それぞれ」と前置きしつつも、「それでもぜひカミングアウトしてほしい」と一歩踏み込む。万人におもねることなく、人生で培った価値観を前面に出していいのかもしれない、と学びを得た思い。
筆者はLGBTという枠を超えた連帯を訴える。その展望の広さには大きな希望を感じた。
総評としては、LGBTの入門書としてそれなりの要件は満たしていると思う。ゲイ自身にとって少なからず希望をもらえる書籍であり、LGBTと世界をつなぐブリッジのような書籍だった。
各論
章ごとの感想とメモ書き。
まえがき
僕は電通という会社に勤めている「フツー」の会社員です。という自己紹介にさっそくメンタルが焼かれる思い。
自分たちゲイを女性的な修飾をもって表現するノリは、ちょっと苦手だ。例としては、筆者は「汐留婦人会」に所属してる。その界隈で働くゲイのつながりを命名したものだ。
第一章 セクシュアリティはグラデーション
たしかに時代はよくなっている。それでも、学生時代はわりかしオープンだったゲイが、働き始めると壁を感じる。会社や仕事の世界は時代の変化に追いついてない、というのは実体験として共感。
グッドエイジングエールズという団体。名前は知っていたけど、実態はよく知らない。ちゃんと調べてみようと思わされた。
筆者の思い出深いドラマとして「同窓会」と「あすなろ白書」が紹介される。同窓会は知ってたけど、あすなろ白書か。初めて知った。そして、作者の柴門ふみさん。気になる。
第二章 自分へようこそ
筆者の半生について。
電通と聞くとおぇーっ!と思ってしまうけど、なんやかんや大変なんだなと思えた。謎の電通コンプレックスが緩和された。
第三章 同じ人生はひとつもない
筆者が2丁目デビューした若かりし頃。6歳歳上の兄にカミングアウトをした。やはり他人のカミングアウトストーリーには、つい胸が熱くなってしまう。
もうね、典型的なカミングアウトの成功例。
第四章 身につければハッピーなゲイのチカラ
「二丁目で「ブス」と言う言葉は、褒め言葉でもあり、愛情表現でもあります。」にうーんと首をかしげてしまう。世代が違うと言えば、それまでなのだけど。
「ダイバーシティ」よりも「インクルージョン」という言葉が好きだという筆者に共感。
第五章 未来のためにカミングアウトしよう
スタンスは人それぞれ、と前置きしつつも、「ぜひカミングアウトしてほしい」と主張する著者。その先に広がっているポジティブな世界、には強く共感してしまう。
自分は今まで「カミングアウトは人それぞれ」に重きを置いてきた。けど、「ぜひカミングアウトしてほしい」の比重をあげようと思い直した。
自分が理想と思う世界の実現に、積極的に加担していこう。
第六章 ゲイの友だちをつくる醍醐味
LGBTが取り沙汰される理由が「人権の問題」から、時代の要請に変わってきたという意見。
多様性を高まった結果、その実例としてLGBTがマッチした、みたいな視点を筆者は持つ。
障害者、外国人、LGBT、属性は違えど、抱える問題は似ていて、横並びに立っていて、あとは僕らが手を繋ぐだけ、というのは素敵な世界観。
LGBT 異業種交流会、というのがあるらしい。気になる
星評価
★★★★☆