レビュー
がん患者である幡野広志さんが書かれたエッセイ。命について、家族について、人生について、丁寧に描かれる。
余命数年の状態でありながら、ここまでオープンにそして軽やかに振る舞えるのかと、著者の人格の高さに息を呑む。
読み進めていくうちに彼の文章が一枚のピクチャのように読める瞬間があった。人生の瞬間を切り取って描写するのが上手い。
なるほど、これが写真家の書く文章なのか。
本書の内容としては、1章ではがんを宣告された彼自身の体験と心情が語られる。2章〜4章では一般の方へのインタビューの様子が収録される。そして5章ではNASAの「直系家族」の定義が紹介され、非常に面白く読んだ。6章では、安楽死というものについて専門的な知識を交えて幡野さんの人生観が描かれる。
自分はだいぶ「選びなお」してきた人生だった。自分の選んだものに囲まれて生きている。
でも1つだけ。まだ選びなおしていないものがあった。それは家族だ。
ゲイとして未来について考える。やはり自分は結婚がしたくて、子どもも欲しいのだと思った。そんなことに気づかせてくれる本だった。
人生の再構築を望む全ての人に読んで欲しい。
各章のメモ
ここからは読みながら書いたメモ。
第一章
- がん患者の半生記録かと思いきや、彼自身の話はどうやら一章だけで終わりそうだと分かる。
- ブログでがんを公表し、数千件のメッセージを受け取った彼は「旅」に出る。心を蝕む病の特効薬を見つけるべく、メッセージの送り主たちへの取材の旅を始める。
- 余命数年の人間がここまでオープンに、そして軽やかに振る舞えるのかと、著者の人格の高さに畏敬の念を持ってしまう。
第二章
- 画家のKさんについて。彼女は17歳でがんを診断され、治療を受け続けた。そんな状況にあってさえ、美大の受験に励む。さらに第一志望に受かるために、いわゆる仮面浪人をして、合格をもぎとる。
- 多発性骨髄腫というタイプのがんが、いかに壮絶な苦しみを伴うかが語られる。この点について自分は全く無知だった。
- Kさんの場合、娘のがんを知った母親が新興宗教にのめり込んでいく、という過去もエグい。
- 読み終わった後、つい深くゆっくりと息を吐いてしまうような章だった。
第三章
- Mさんについて。大切な母親を乳がんで亡くしてしまったMさん。生前、母親は夫からの暴力を受ける毎日だった。
- 機能不全家庭のがんの話だったのだけど、最後にはMさんが自立できて良かった。Mさんの趣味は電子ピアノだ。著者が技術について語る一文が良かった。技術を高めるとあくまで失敗が減るだけ。大切なのはハート。好きなものにはとことんワガママに。
- 高齢になった父親を恨むことができないという点は、非常に引っかかる。しっかりと正しく恨んで欲しい、と思ってしまう自分は優しくないのかもしれない。
第四章
- がんとは関係なく、機能不全家庭で育った女性の話。家族の緩衝材としての役割を負わされ、典型的な「良い子」を演じた。
- 医療が線ではなく点という観点はなるほどと思った。父親が快復した、は医療的には良い話。だけど家族は線であり、その先も介護の問題は残る。というより、それ以前の線として、子どもの頃から居心地の良い家族ではなかった、という過去がある。
第五章
- NASAの家族の話面白い。直系家族とは、配偶者と、お互いの子どもと、子どもの配偶者のみ。そして、パイロットの直系家族のみが特別室からの閲覧を許される。直通電話が優先されるのも直系家族。
- それ以外の両親や兄弟はすべて拡大家族。
- 同性婚やLGBTに触れているのはポイント高い。
第六章
- 安楽死は3種類ある。積極的安楽死、自殺ほう助、尊厳死。
- 耐えがたい苦痛を受けるなら安楽死を選ぶと回答した人はなんと8割。
- 救いたい医師と悲しみたくない家族の利害が一致しやすく、患者の苦しみたくない(苦しむくらいなら安楽死)という感情が無視されやすい。