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【文化人類SFの最高峰】所有せざる人々 - アーシュラ・K・ル・グィン

レビュー

SF小説の必読書と言われる本書。SFファンとしては読まずにはいられない!ということで読んでみた。

果たして、必読かと問われれば、微妙かもしれない。SFファンとしてはそれなりに楽しめたけれども、人に勧められる自信があまりない。

何しろ長い。560ページだ。しかも本書の構成は少しトリッキーで、過去と現在が交互に描かれる。

主人公がアナレスという星で暮らしていた過去と、ウラスという星にやってきた現在は、各々数十ページの文量を割いて交互に登場する。

そんな構成のせいか、個人的に面白いと感じ始めたのが400ページ辺りからだったw

しかも、さすがのル・グィン。文化描写に余念が無い。人々の生活や思想の説明がこれでもかと描かれるので、苦手な人は苦手だと思われる。

そんな本書の最大の特徴が何かと問われれば、「文化の越境」かもしれない。

ル・グィンの本を読むのはこれで3冊目だ。

高校生の頃に「闇の左手」を、大学生の頃に「ロカノンの世界」を読んだ。そして社会人になった今、「所有せざる人々」を。

それ以前に読んだ本と比べると、「所有せざる人々」では2つの星が登場するのが面白かった。

かつてウラスという星でアナーキストたちが蜂起した。彼らは独自の世界を求めて、アナレスという荒涼世界に移住した。そんな歴史があるので、2つの星が対称的な文化を持つのは至極当然。

主人公のシェヴェックはアナレスからウラスに飛び立つ。

アナレスではアナーキズムが良しとされている。所有は悪であり、持たざる生活が推奨される。

それは飢えなのだけど、平等でもある。人が飢える時、自分も飢える。そんな世界だ。戦争も政府も、貧富の差もない。

一方でウラスは真逆だ。資本主義国家と共産主義国家が戦争をし、経済的な格差は非常に大きい。

アナレス生まれの彼の目から見たウラスの描写が非常によい。最終的に彼はウラスを「地獄」だと形容する。この文化の越境を追体験できることが、本書の良さかもしれない。

どちらの星も決して完璧ではないのだけど、両極を見た読者は世界の在り方についてつい考えてしまう。

あと、ニオ・エッセイアという街が少し東京っぽい。人々は忙しく歩き、富を増やすことに執着している。相互扶助ではなく相互侵害の世界。

そこで登場するヴェアという女性はウラスの化身のような人物。強者と欲望の権化のような彼女の言動には少し痺れたw

なるほど。文化人類学SFの最高峰。ル・グィンの傑作と言われる所以が分かった気がする。

SFファンとして読んでおいて損はないけど、ふつうの本好きにはちょっとハードルが高いかもしれない。

星評価

★★★★☆

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