レビュー
リモートワークについて調べていたところ、本書の存在を知った。どうやらリモートワークについて集中的に書かれているらしい。
まず、筆者の主張が強い。リモートワークに踏み切れない企業について、
多くのオフィスでは、愛想と出勤態度だけは文句なしの、凡庸な人材で埋め尽くされてしまう
と言った表現をする。
初めこそ少し抵抗があったものの、読み進めていく内に、それは筆者の信念の強さに由来しているのだと知る。
筆者の1人はデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンである。ウェブ業界では「DHH」という呼称で有名な人物で、Ruby on Railsの開発者として知られている。
Ruby on Railsは大変有名なフレームワークであり、オープンソースとして開発されている。オープンソースとはつまり、世界中の開発者が開発に貢献しているということ。そこでは、場所も時間も問われない。
Ruby on Railsの成功を思えば、DHHがいかにそのコラボレーションに腐心したかは想像に難くない。
そのような背景があるからこそ、本書の内容は確固たる「リモート論」として学びの多い一冊だった。
もちろんリモートワークの良さだけではなく、その誤解やデメリットにもきちんと触れる。その点はフェアだと感じた。
ただし章ごとに内容の区切りが曖昧で、重複感は否めない。さらに挿絵が多いので、見かけ以上にエッセンスは少ない。
それでも、実体験に基づいたリモートワークの解説本として、リモートワークの教科書としては一読の価値ありと感じた。
以下、各章ごとの引用。
リモートワークの時代がやってきた
大事なのは時計の針ではなく、仕事の中身
綺麗なオフィスや最新の設備は魅力的だけど、結局出社を前提にしてるんだよなと気付かされた。リモートワークがしたい人間にとって、それらはあまりに魅力的に映らない。
リモートワークは、社員の生活の質を向上させるためのものだ
これは大いに納得。この点が理解されていないと、「生産性が下がった!」みたいな変な批判が生まれそう。
リモートワークの目的は、みんながいちばんやりやすいやり方で働くことだ。こうしなければならない、という決まりはない
リモートワークの欠点にも言及されている。
1、仲間と顔を合わせづらい 2、モードの切り替えが大変
リモートワークの誤解を解く
オフィスワークやオンサイトミーティングの良さとして、インスピレーションが生まれるからと信じる人はいる。それに対し、本書では「ひらめきは多くなくて良い」と説明する。
多くの会社がリモートワークに二の足を踏むのは、社員を信頼してないからだ
リモートワークをまかせられない人間に、何をまかせられるというのだろう
リモートワークで気が散る問題について、気が散らないほど魅力的な仕事をするべき、と書かれている。
97ページにリモートワーク導入企業リストあり。
リモートのコラボレーション術
リモートのコツや良さについて書かれる。この章はまたいつか再読したい。
リモート時代の人材採用
納得しやすいメリットとして、リモート可能なら採用の幅が広がると書かれる。ただしテキストコミュニケーション主体となるので、ライティングスキルの確認は重要。
引っ越しで退職、はもったいない。かつ、長年働いている社員ほどリモートしやすい。社内に知り合いが多く、仕事のやり方が分かっているため。
リモートワーカーは人柄が大事 距離を克服するためには、良質なコミュニケーションが大事
文字だけのやり取りでは、人は悪い方に流されやすくなる(誤読など
地域によって賃金格差をしてはいけない
これは完全に同意。
「有能」で「仕事をやり遂げる」のが価値のある人材 ― ジョエル・スポルスキー
だから多くのオフィスでは、愛想と出勤態度だけは文句なしの、凡庸な人材で埋め尽くされてしまう
文章力のある人を採用すべし、という話に同意。かつ、ひたすら読んで文章力を鍛えよう!というのにも同意。
リモート時代のマネジメント
リモートを始めるのは早いほうが良い、オフィスに慣れるとリモートへの移行に時間がかかる
OSS成功の秘訣として3つのポイントが書かれる。
1, 自発的なモチベーション 2, オープンな情報 3, リアルな交流
ワン・オン・ワンの目的はコミュニケーションの扉を開けておくこと。筆者の会社では2ヶ月に1度のペースで充分らしい。
無駄な承認プロセスは根絶し、情報の隠蔽もなくす。
リモートにおける働き過ぎに注意。働きすぎると燃え尽きる。
リモート主体となると、相対的にオンサイトの時間の価値が高まる。
リモートワーカーの仕事スタイル
仕事のオンとオフの切り替えについて、いくつかのアイデアが提示される。部屋の中でも仕事着を用意する、仕事とプライベートの空間を区切る、デバイスを使い分ける、など。
頭脳労働者のモチベーションを引き出す唯一の方法は、楽しい仕事を、楽しい仲間とやらせることだ。それ以外に近道はない。
モチベーションは、心の健康に不可欠だ。健全なチームづくりにも欠かせない。