日々是書評

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【書評】悪人 - 吉田修一

レビュー

正直、救いのない話だと思う。

この小説の中で(僕にとっての)悪人は不当に殺されてしまった。あるいは、裁かれずに野放しになっている。

そして殺した人間はひとりで業を背負った。

それはまるで宗教小説のような、遠藤周作三浦綾子の作品を彷彿とさせた。

前半のミステリーライクな作風とは裏腹に、後半では登場人物の内情が直球で吐露される。犯人は誰か、なんて表層的なものではなく、その心理や感情にのめり込んでしまう。

関係者へのインタビューの挿入も良い。それはとても映画的な演出で印象に残ったし、主要人物を多面的に見せた。

個人的には、236ページからの情感描写がたまらない。出会い系を初めて利用した女性の心理描写がうますぎる。恐れつつも、大胆な自分に出会っていく。こういうシーンは大好きだ。どうして吉田修一はこんな心情が分かるのだろうか…。

なるほど、これが芥川賞直木賞の選考委員の代表作。少し人物のデフォルメが強すぎる部分はあるものの、強烈な没入感をもって読めた。

以下、引用。

増田の佳乃への印象。

正直、この手の女は苦手だった。何かを待っているくせに、何も待っていないふりをして、待っているだけのように見せかけて、その実、様々なものを要求している。

佳男のが増田に投げたセリフ。

「今の世の中、大切な人がおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ」

星評価

★★★★★

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