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【文明崩壊系記号SF、ほか】象られた力 - 飛浩隆

レビュー

飛浩隆を読むのはこれが初めてとなる。本作は、表題作の「象られた力」を含む4篇からなる作品。レビューの評価が高く、初めて読むのには最適かとも思われた。

それぞれのエピソードの評価とジャンルを書くと以下のようになる。(ネタバレ)

  • デュオ(★★★★★): ミステリー、音楽、サスペンス、生と死、意識、テレパス
  • 呪界のほとり(★★★★☆): 宇宙、バロック、冒険、ファンタジー
  • 夜と泥の(★★★☆☆): 宇宙、宇宙連合、テラフォーミング、生物
  • 象られた力(★★★★★): 言語、記号、宇宙、宇宙連合、超能力

「デュオ」は文句なしに面白い。きちんと物語しているし、数度のどんでん返しがある。おどろおどろしい雰囲気作りが上手いし、ちょうどいい難解さが歯ごたえを生んで心地いい。SFとしては少し変わり種だけど、万人受けしそうな内容ではある。さらに、文章に惹きつけられる。

「呪界のほとり」は、王道の宇宙系SFと言ったところ。宇宙ワープ、人造の竜族、謎の追手など、ワイドスクリーン・バロックSFを久しぶりに読んだ思い。

「夜と泥の」はテラフォーミングの話。自分にはあまり合わなかった。好きな人は好きかもしれない。が、作品全体のリズムを考えた時、「象られた力」の前の静けさとして上手く作用していたようにも思う。

「象られた力」はなかなか良かった。テッド・チャンの「メッセージ」のような、言語系SFかなと思わせて、実は文明崩壊SFでもあった。百合洋(ゆりうみ)文化の記号はとても魔性に映る。そして抗うすべもなく人間がおぼれていくさまは、恍惚的でもあった。

平均して面白かったし、SFとしてのジャンルは多岐にわたる。デュオは万人におすすめ。象られた力はSFファンにオススメ。ぜひ、この作者の他の作品も読みたい!そう思わされるだけの1作だった。

各論

デュオ

ミステリ風味の音楽小説。かと思えば、SF的エッセンスが光る。

登場人物は魅力的。手話士のジャクリーンも、歌手のエーファも魅力的。

文章はサッパリと小気味よい。淡々としているわけではなく、きちんと技巧的で読者を唸らせる。(咳をしわぶきと読むのを初めて知った)

顔は別々、身体は一つ、という双子が登場する。彼らはテレパス能力を持つ。しかし実は三つ子だった。3人目は出産時に死んでしまったものの、双子のテレパスのフィールドで生き続けていた、というSF的面白さ。

双子の声を介して「名無し」が初めて喋るシーンは背筋が凍る想いがした。

そして終盤、まさかのどんでん返し。最後まで手を緩めない作風。冒頭の伏線を回収するんだけど、それすらもどんでん返しに利用する。

音楽とテレパスと、そして生と死。たった120ページの短編小説なのに、これだけのテーマを盛り込み、満足度が高い。

ピアノは黒く輝き、グラマラスな曲線を描いて舟のように美しい。p49

緊迫感は、急ぎすぎない絶妙のテンポコントロールによってさらに増幅される。p58

呪界のほとり

ファンタジーSF小説

呪界という宇宙の1エリアがあり、そこは恐ろしく稠密になっている。もはや超高速航法など必要ない世界。そんな宇宙からうっかり外に出てしまった男が主人公。

不毛の惑星で露頭に迷った主人公の「万丈」は、惑星で唯一の住人であるパワードに助けられる。

彼が廃船のテクノロジーを寄せ集めた装置で呪界を「呼び寄せた」ことで、万丈(とパワード)は呪界に戻ることが出来た。

でも実はそれらは全て「大いなる宇宙の知能」の筋書き通りだった…?!というメタ的な締めくくり。

旅の相棒の竜が登場したり、謎の殺し屋が追手として登場したり。宇宙ファンタジーSFとして王道な感じ。それでいて50ページもないので、サクッと読めてしまう。

夜と泥の

これまた宇宙系SF。正直なところ難解で、よく分からなかった。という感想になる。

テラフォーミングの弊害?のように読めた。

生物たちの躍動感、みたいなものは印象的だった。

象られた力

帯の紹介部はこのようになっている。

惑星"百合洋"が謎の消失を遂げてから1年、近傍の惑星"シジック"のイコノグラファー、クドウ円は、百合洋の言語体系に秘められた"見えない図形"の解明を依頼される。だがそれは、世界認識を介した恐るべき災厄の先触れにすぎなかった…異星社会を舞台に"かたち"と"ちから"の相克を描いた表題作

うーむ、なんとも難解そうに思える。いざ読んでみると、確かに難解さは感じた。

難点としては、短編にしては人物が多く、把握が難しかった。

が、ストーリーラインは理解できる。図形的なミクロで抽象的なストーリーと、百合洋的なマクロで具体的なストーリーが絡み合って進んでいき、バチバチに伏線を回収していく。

終盤の勢いは読者を飲み込む。図形を介して一人称視点で「開眼」するシーンには痺れた。そしてそれを自覚し、世界を救済(?)するラストシーンは、カチリとパズルが完成したような小気味よさを感じさせた。

図形について。文字とはつまり境界。境界線があり、そこに意味が生じる。的なセンテンスは、物語の枠を超えて現実的。少し世界認識が改まった。

星評価

★★★★★

今回紹介した本