レビュー
SFの必読書として挙げられることがある本書。購入してみるとまさかの短編集。
「世界の中心で愛を叫んだけもの」は表題作。他には14作ものストーリーが収録されている。
クオリティの平均値は高い。多種多様なSF的エッセンスが散りばめられているし、ストーリーテリングはそれなりにOKだと思う。
ただ、説明不足なところがある。説明過多よりは良いけど、いきなり筆者の世界に投入される感じがあり、唐突感はある。そういうのを楽しめる読者向けかな。
特に表題作はもっとも理解不能だった…。これが必読書なのか…?
それと、時代ゆえか差別的な言葉や表現が含まれており、良くも悪くもそこは昔の本といった感じ。
まとめ・あらすじ
ここからは各短編のあらすじやまとめについて。
世界の中心で愛を叫んだけもの
表題作。うーん、ちょっと説明不足すぎな気が…。一読では理解できなかった。
レビューによると「何度か読めば理解できる」とのこと。トライしてみようかな。
101号線の決闘
ちょっと面白かった
フリーウェイでの自動車バトル 決闘を申し込むシステムがあり、それは合法であるという世界
主人公のジョージは興奮し、生意気な若者に勝利するものの、若者ビリーはツワモノだった。入れ替わるように、今度は自分が決闘を申し込まれる立場になってしまった、というダークな終わり方
不死鳥
ちょっと面白かった 時間循環世界 砂漠を旅する主人公たち そしてたち現れる、滅びたはずのニューヨーク、みたいな話
眠れ、安らかに
面白かった、と思う 読みにくさはあるものの、世界観とストーリーがきちんとある 短編SFとしてきちんと成立している
平和を願う神学者は、死してなおその思念を地下深くに残留させられた。その思念は地上の人々を監視し、戦争の芽を摘んだ。
その思念抹消のミッションを受けたのが主人公のアボット。 思念無効化を会得して、再び戦争のある世界を取り戻す、というディストピア感のあるストーリー。
サンタクロース対スパイダー
説明不足のまま話が進んでいき、分かったような分からなかったような、そんな終わり方をする
サンタクロースとは主人公のこと。正義の組織の一員?なのか、SPIDERと呼ばれる謎の勢力と戦い、世界を救う
辺りに暗闇を発生させる装置とか、振ると両刃剣になるボールペンとか、小物はカッコよかった けど、戦闘シーンはよく分かりづらい
鈍いナイフで
超能力の負の側面、みたいな話。
主人公のエディは超共感能力者(エンパス)。どうやらエンパスは人々に元気を与えるらしい。そして当人はエネルギーを吸われていく。
街の人々はエディを搾りとり、そして最後には彼は「干からびた死体」となる。
ピトル・ポーウォブ課
数ページの超短編。 謎の生き物との謎の会話。ちょっと理解ができなかった。説明不足な書き手に短編を書かせてはいけないと思う。
名前のない土地
面白いような微妙なような。
うっかり人を殺してしまった男が逃げ込んだのは、EscapeInside という店。自力で出ることはできず、この店から出るのが商品だと店主は説明する。
そして店主に従った男は、「名前のない土地」で目覚める。ジャングルのようなその世界を彷徨った彼は、プロメテウスという男を見つける。
プロメテウスは鎖で縛られており、彼は「決裁者」が刑期の終わりが来たと言い残す。そして今度は男が縛られているという。
良く言えば夢の中のような、悪く言えばよー分からんお話。
雪よりも白く
雪山で遭難した男が、イェティが登場する。
星星への脱出
面白かった。
地球はキバという星系と戦争状態にあった。
舞台は地球の辺境の星、まさしくキバからの襲撃を受けているところ。
人々は、主人公に太陽爆弾を埋め込み、それを交渉材料に使う。
一人残された主人公。人々が逃げ去ったあとに爆弾を探すキバ星人たち。
主人公の恐れは自分を利用した地球人への怒りへと変わる…という「虎よ!虎よ!」を思わせる復讐劇っぽさがあった。
キャラクターとストーリーと描写力と世界観の四拍子が揃った名作。
聞こえていますか?
面白かった。
透明人間のようなお話。もっと言えば、存在が薄れて、人々から知覚されなくなる現象。
その症状に見舞われた主人公のアルバート・ウィンソーキは、戸惑い、街を放浪する。
そして、自分以外にも自分のような人間を発見する。彼らはこの気楽な状態に満足していた。
しかし、アルバートは元の生活に戻りたくてもがき続ける、という終わり方。
満員御礼
面白かった。
いわゆるファーストコンタクトなのだけど、宇宙人たちは戦艦から出ない。ニューヨークに着陸したその戦艦のそのブリッジで「パフォーマンス」をするだけ。
人々は魅入られる。主人公はそれによってショバ代を稼ぎ、利益を得る。
しかし、何千回もパフォーマンスが繰り返されたのちに、変化が訪れる。ついに宇宙人たちが地上に降りてきて大量殺戮をする、というもの。
とても印象に残る一作。
殺戮すべき多くの世界
終盤でようやく世界観を理解できた。なるほど、主人公のジャレッドは統一宇宙を作ろうとしている。そのために、何度も大きな調整作業をしている。 相棒はマシーン。統一宇宙までの計算された工程を粛々とこなしていく。という話。
ガラスの小鬼が砕けるように
モンスターハウス、みたいな感じかな。
ある館には薬物依存の若者たちが住み着いていた。 そこで主人公のルーディはクリスと共に住んでいた。
しかし、住人たちはいつの間にか異形の存在となっていた。クリスもまた怪物となっており、怖くなったルーディは鏡を確認する。そこにいたのは、ガラスの小鬼となった自分だった。
おどろおどろしい雰囲気づくりが上手い一作。
少年と犬
短編集のトリとしてそれなりにふさわしい1作だと思った。
いわゆる荒廃世界系。第三次世界大戦が勃発し、地下に逃げ込んだ人々と地上を放浪する輩たち…。みたいな世界観。
ストーリーは粗野なボーイミーツガール的と言ったところ。
スパイスとなるのは相棒の犬かもしれない。品種改良の結果、一部の動物は人々とテレパスできるようになった。
主人公の少年と犬の絆、みたいなものはこの作品の1つの味だと思う。
それにしてもこの結末…。まさかのダークコメディだったという。差別的な表現や言葉がかなり多いので、ギョッとしてしまう人はいるかも。良くも悪くも昔の作品と言ったところ。
星評価
★★★★☆