レビュー
いつか誰かにオススメされた本。それが桐野夏生の「I'm sorry, mama.」だった。
しかし、自分は「グロテスク」から読んだ。そして「OUT」。両方とも上下巻から成る大作。文句なしに面白かった。
そして満を持して(?)、本書を手にとった。
やはり面白かった。まるで毒を飲まされたような読書体験。
星の子学園関係者の視点から物語は始まる。かつて関わりのあった、アイ子という女が自分を焼き殺しに来る。末恐ろしい物語のスタート。
それから物語の軸はアイ子に移っていく。「経営巫女」の世界を挟みつつ、「ヌカルミハウス」に物語は収斂していく。
アイ子の過去が次第にクリアになっていき、最後には母親の正体が明かされる。まさしく I'm sorry, mama. という終わり方。
さながらアイ子の人生を追体験するようだった。彼女は孤独なのだけど、そもそもにして愛を知らないので悲壮感はない。深く考えることはなく、ただただ殺し、奪い、ゆらゆらと生きる。孤独の放埒と言った感じ。
だけど、芯の部分で母親の正体を知りたいという、強く共感できる部分がある。その1点にどこか惹きつけられた。
たった250ページなのに非常に色濃く、没入させる手腕は見事。
自分の知らない世界。社会標準から逸脱した人々。それらをエンタメ小説として、匂い立つようなリアルさで描いてみせる。桐野夏生らしさが光った1冊。
たしかに、桐野夏生を人におすすめするなら、「まず I'm sorry, mama. かな」と思わせる1冊だった。
星評価
★★★★★