日々是書評

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【究極の孤独と恋愛】すべて真夜中の恋人たち - 川上未映子

レビュー

川上未映子という作家の本は初めて読んだ。前から気になってはいたけど。

ページ数を贅沢に使う作風だと感じた。つまり描写過多ということなんだけど。エッセンスを取っていくような読書家には向かないかもなーとか思ったりした。

そして良くも悪くも登場人物の主張が強い。

聖の仕事観は胸が熱くなるようで良かった。水野くんの人生観は若い頃の自分のそれと酷く似ていて共感した。一方で、恭子さんのような、ありきたりでいじわるな人物が描かれたりする。その描き方に露悪的な匂いを感じてしまって、ほら、こういう意地悪な人っていますよね〜と共感を求められているようで、ちょっと引いた。

ある女性が太っているだとか、水野くんが志望校に落ちただとか、この作家はチクリと余計なことを書かずにはいられないのかな。留めることができずに漏れ出た攻撃性が気になった。

キャラクターの主張が強いと感じたのは、主人公があまりにも受け身だから、相対的にその感覚が強まった、という面はあるかも。

恭子さんの嫌味を主人公はただ延々と聞く。お世話になっている聖の悪口を、うんうんと頷いて聞く。まるで自分がその場面を追体験しているようで、イライラしてしまった。言いっぱなしにしてんなよ!と。

その苛立ちは意志薄弱な主人公にこそ感じていて、自分の優しくない面が刺激されてしまった。

でも、ちょっと待ってほしい。ここまでが中盤まで読んだ感想。

この小説は終盤の盛り上がりがすごい。300ページを越してからの加速度たるや。最後の50ページは、ページを捲る手が止まらなかった。

孤独が極まって三束さんにしがみつく主人公がたまらなく愛おしかった。耐え難い孤独の中でも、しがみつく人がいて良かった。しがみつくという選択をできた主人公で良かった。

そしてその直後の聖ね。終盤で突然爪を見せるとは…。この時点では読者としては主人公への苛立ちは消えているから、主人公に投げかけられる酷い言葉がもう聞いていられなかった。

聖、憎し!みたいなモードに入ったしまった。

でも、主人公が泣き出して、聖も泣き出して「私はいつもこう。酷いこと言って、台無しにしちゃう」みたいに吐き出す。もうね、この全部吐き出して、めちゃくちゃになって、ぶつかり合うみたいな展開。好きすぎた。

ちょっと急な展開ではあったけど、あまりにのめり込みすぎていたので、まんまと作者にもてあそばれてしまった。

そして、三束さんとはまさかの疎遠になるという…。でも、現実ってそんなもんだったりするよね。一時期ものすごくのめり込んで大切に感じても、過ぎてしまえば何てことは無い人だった、みたいな。そういうことってある。

現実的な着地点に持っていったのは、それはそれで高評価。 描写過多だとか感じたりもしたけど、すべてが最後の50ページのためにあったのだと思えば、充分に良い読書体験だった。

なるほど、川上未映子。しっかりと夢中になって読んでしまった。他の著作も読んでみたいと思わせる良作だった。

星評価

★★★★★

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