レビュー
SF的な要素とミステリー要素、そして作者からの根源的なメッセージを含んだ、紛れもない古典SF(というより古典海外文学)の名作だった。
とある宇宙船にて記憶を失った状態で目覚めたガリヴァー・フォイル。救難信号を出したものの受理されることはなく、彼は復讐に燃えることになる。 この導入部分のシンプルさが、まず良い。
救難信号を無視したのは誰だったのか。その真相を探る行程はミステリー小説さながら。
一方で、SF小説としても、もちろん大いに楽しめた。 25世紀の宇宙では”ジョウント”と呼ばれるテレポートが一般的となっており、一般市民やホームレスでさえ、テレポートをすることが普通になっている。 そしてテレポートのみならずテレパス能力や赤外線を観る能力なども登場するので、SFファンとしては心をくすぐられた。 内衛生連合(地球、金星、水星など)と外衛星連合(木星、土星、及びそれらの衛星)が敵性関係にある、という更なるマクロ的な世界観も良い。
あとは、細かい点だけど、何気ない社会的な描写も良かった。 例えば、富裕層の間ではジョウントが”ダサい”とされ、自動車のような旧来の移動手段が富の象徴となっている、等。 テレポート社会のリアルさを強固にしているという点で、非常に良かった。
そして何より、ガリーが"時空間ジョウント"を発現させるシーンはSF史に残る名場面だった。
終盤には「人間とは、社会とはどうあるべきか」というメッセージが投げかけられる。単なる空想物語で終わらないのも、この作品が長く読み継がれるポイントの1つなのかもしれない。
ただ、女性があまりにヒステリックに描かれていて、そこは少し時代を感じてしまった。
星評価
★★★★★